ヒストリーチャンネル「日本史 汚名返上 『悪人』たちの真実」と登場した「悪人」たちが登場する創作物
ヒストリーチャンネルで年始に一挙放送をしていたのを録画したのを見た。
通俗的に「悪人」とされている日本史上の人物を別の視点から見てみようという番組。ホストは『逆説の日本史』の井沢元彦と精神科医の和田秀樹。取り扱った「悪人」は10人。各人30分3トピックにまとめて話す形式。1トピック10分ない程度なので大胆にまとめている感じ。
紹介された悪人は以下
人物 | 悪人とされている理由 | 日本三大悪人 | 討死・暗殺などで死んだか? |
---|---|---|---|
平将門 | 天皇になろうとした | ◯ | ◯ |
徳川綱吉 | 生類憐れみの令を含めた悪政 | - | × |
道鏡 | 皇位簒奪 | ◯ | × |
田沼意次 | 汚職政治 | - | × |
蘇我入鹿 | 国を意のままに操ろうとした | - | ◯ |
井伊直弼 | 無断条約締結と粛清 | - | ◯ |
平清盛 | 一族で権力を意のままにした | - | × |
吉良上野介(義央) | 忠臣蔵の悪役 | - | ◯ |
足利尊氏 | 南北朝分断と裏切り | ◯ | × |
織田信長 | 比叡山焼き討ちなど | - | ◯ |
学校教育を受けてから随分経ってしまったので、彼らを教科書でどう教えてもらったのか忘れてしまっていて、私の彼らのイメージは創作物に寄るところが大きい。
平将門
鬼丸大将 (1) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 1995/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
『鬼丸大将』だと主人公ではないこともあって叔父に横領された父の領土を取り戻すために都に来るも、失意のうちに田舎に戻る青年、相馬小次郎として登場する。作中の彼の決起の動機はかなり近代的なもので、同じ人間が差別されない国の建国といったもの(タイトルに含まれる鬼丸は日本に流れ着いた外国人とのハーフで、外見と体躯から「鬼」として差別されており、また、小次郎の周囲には他にも非差別階級の人がいる)。このへんは手塚治虫の漫画に共通した価値観なので脚色だろう。
端的なまとめだとこれ。桓武平氏が坂東と伊勢で別れた経緯と、元々桓武平氏の地盤だった坂東に清和源氏が勢力を持つようになった経緯が書かれている。
当時の体制化では謀反人なのでむろん、罪人なのだが(番組中の補足で記録に残っている上で一番最初の一番大きい獄門刑の人らしい)。源頼朝から始まる武家の幕府体制側からは朝廷に代わる機構を最初に立てようとした人として崇められている。徳川氏も江戸総鎮守として神社に祀られている人なので、倒幕で前政権が良しとしていたものを悪いと言われている感じ。
徳川綱吉
確か『風雲児たち』の徳川吉宗の回あたりで評価が出てきたような記憶があるが、それくらい。廃止されたものも多くあるものの、特に前半治世の文治政治や貨幣経済的なところをどうにかしようとしたところは現在は評価の対象になっている様子。
道鏡
この人そもそも中立な記録がほとんど残っていないような時代の人なので図書館に遭った学習漫画の日本の歴史の奈良時代編で読んだことがあるくらい。子供向けの漫画なので男女の関係についてははっきり書いていなかったものの怪僧ラスプーチンタイプだった記憶がある。当時の僧侶が大陸から渡ってきた知識の第一人者で、医学にも通じることが多かったことから内科治療だけでなく精神科医的なこともしていて、天皇が信頼できるメンターとして重宝したのかもという説は面白かった。当時の制度上で天皇の側で地位を持って働くには、高い地位を用意するしかなかったのだろうけど、そこが藤原氏の顰蹙を買ったというところ。
晩年については知らなかったものの、政治家を辞めて地方で僧侶の職業をしていたということで、処刑されていないことから見ても、この人が本気で皇統簒奪を狙っていたわけでもなく、宇佐八幡神託事件は何かよく分からない話だったのかも。
田沼意次
平賀源内『解国新書』より 七つ目小僧 (石ノ森章太郎デジタル大全)
- 作者: 石ノ森章太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/01/30
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
田沼意次は石ノ森章太郎の『平賀源内・解国新書』の印象。石ノ森章太郎は経済系の漫画を意外に書いていて
- 作者: 石ノ森章太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/05/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
『マンガ日本経済入門』などという著作もある。
この漫画は平賀源内が田沼意次失脚後に田沼政治を悪く言う人が多い中で田沼政治の振り返りをした『解国新書』を現代の学者を通して解説する漫画。「平賀源内が田沼意次に世話になっている人なのでそこを割り引いて考える〜」的な話は現代の学者パートで書かれている。東西両方で金勘定は低く見られる一種の美学がある(江戸時代の身分制度だと士農工商だし、ヨーロッパでもそれなりの時代まで金融業はユダヤ系だったりした)が、経済政策面で高く評価されている話。番組中でもそのあたりの評価は同じだった。
蘇我入鹿
自分が教科書で勉強した頃には大化の改新しか出てなかった気がするが、乙巳の変も最近は出ているのか。天智・天武期は天皇の血統の入れ替わりの問題や、それに付随した史書の食い違いがあり中々謎なところが多い(古事記、日本書紀、蘇我氏の滅亡で失われたと見られている国記など)。総合すると一番の権力者だったし、中大兄皇子一派からするとまだ朝廷が不安定な中では誅殺せざるを得なかったといったところ。時代が下ればこのときの功臣の子孫である藤原氏が大なり小なり同じようなことをやっていた気がするが、体制のあり方が大きく違うのだろう。
- 作者: 中村真理子,園村昌弘
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/02/28
- メディア: コミック
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
天智・天武期の最近出た漫画というとタイトルはそのままで『天智と天武』がある。朝鮮半島情勢(当時記録上は大和朝廷は朝鮮半島に任那群という領土を持っていた)や勢力母体を元に、蘇我氏や中臣鎌足が語られるのが面白い。
また、やる夫スレになるが、平将門の項目で上げた鎌倉幕府成立の話と同じ作者が大海人皇子の話を始めている。
当時の大和王朝が影響力が及んでいた範囲や、日本の地形など見落としていた点が多くて勉強になる。この頃とは1400年も時代が違うのだから気候変動や大陸変動、開拓の具合が大きく異るのはよく考えれば当然なのだが、島国であるせいか、いつの間にか長らく今の日本の形であったと思ってしまいがちなのでよい視点を与えてくれたと思う。
井伊直弼
この人の話は『風雲児たち 幕末編』で概ね読んだ内容だった。
- 作者: みなもと太郎
- 出版社/メーカー: リイド社
- 発売日: 2002/07/26
- メディア: コミック
- 購入: 5人 クリック: 65回
- この商品を含むブログ (38件) を見る
自分の出自に正統性が弱く、たとえ幕府譜代の彦根井伊家ですら正統性がないものがどのような扱いを受けるのか骨身に染みて分かっているがゆえに正しくあろうとした結果、悪い方向に働いてしまったという感じ。幕末攘夷志士とそこから政権を倒した明治政府からすれば悪人だが、離れてみてみれば役割の犠牲者だという感じがする。
平清盛
この人も本人頑張ったけど、一族の悪評や子孫が負けたことが悪評の原因な気がする(「平氏にあらずんば人にあらず」はこの人の言ではなく、義弟の平時忠)。後、大きく言うと同系列の桓武平氏の清盛の伊勢平氏系列は頼朝配下になった坂東平氏系列に負けたので、必要以上に悪く書かれてるのではなかろうか。近年の大河ドラマはそういうアットホーム感を書く感じはあるが、『平清盛』
- 出版社/メーカー: NHKエンタープライズ
- 発売日: 2013/05/10
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (2件) を見る
でもそんな感じだったし、近年作品では『ジパング 深蒼海流』で
- 作者: かわぐちかいじ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/05/23
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
でもそんな感じだった。どちらでも遺族がこじらせてしまった感じではある。清盛より早く死んだ長男の重盛が日本三忠臣に上げられている。重盛は調整役が多かった人だけれど、豊臣秀吉の弟の秀長とか、毛利元就の長男の隆元とか、豪腕系の下の調整役が先に死んでしまうと諸々問題噴出しますね、という感じ。
吉良上野介
忠臣蔵の話の犠牲者。例によって忠臣蔵のパロディで様々な解釈がされているけれど、一番面白かったのは『釣りバカ日誌』の番外編でやっていたパロディ(Googleで調べてみたけれど、どの巻収録かわからなかった)。
配役としては
となっている。事の起こりは江戸城松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介に「鮒侍」と言われて刃傷沙汰になり、赤穂藩江戸屋敷に赤穂浪士(当時はまだ浪士ではないが)一同が集まったところから始まる。多胡内蔵助はたいそう現実主義者で軟弱なしゃべりに英語を交えて仇討をしたところで赤穂藩の立場は悪くなるし、内匠頭の弟の浅野大学による赤穂藩存続の目があるうちはダメだという。ただ、交渉を有利にするために襲撃をちらつかせて恫喝する手段を提案する。
そんなこんなで襲撃をするフリを続けていくうちに本人たちの意志とは無関係に江戸庶民を始めとして「仇討」を期待する声や勢いが大きくなり、赤穂藩断絶が決定し後に引けなくなってしまう。内蔵助、主税親子はぼやきながら歩いていると、釣り糸を垂らした浜崎某が会話に割って入り「自分があの時鯉を釣り上げていればこんなことにならなかった」と言う。
時間を遡ると吉良上野介に鯉を釣り上げて届けてみせると約束した浜崎某が鮒しか釣れず、細工をして鯉に見せかけたものを吉良邸に届け、後日江戸城松の廊下で吉良と浜崎が出くわす。バツの悪い浜崎はその場に居合わせた浅野内匠頭の影に隠れるが、吉良は浜崎に気が付き「鮒侍」と声をかける。浅野内匠頭は自分が吉良に侮辱されたと勘違いし、刃傷に及んだのだった。
事の真相を知った内蔵助、主税親子は激怒して浜崎某を追いかけるのだった。という酷い話。
しかし、実際のところ吉良上野介にとっては想定外のことだったのには違いがなさそう。
足利尊氏
この人ほど精神分析的に見てみると面白い人はいないのかもしれない。この人が悪人になったのは『大日本史』で南朝を正統としたためだろう。それにともなって北朝関係者を悪く描いたため、編集を指示した徳川光圀が「(江戸幕府が足利高家と認めていた)喜連川氏の男子が絶えた場合は風評で養子が出ないだろうから水戸家から養子を出すように」と言い伝えたとか。尊王精神の発端は水戸藩にあったりするので明治期も南朝正統史観を踏襲して、再評価が出たのはおそらく戦後で、吉川英治の『私本太平記』などもその流れではないだろうか。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001562/card52430.htmlwww.aozora.gr.jp
この時代を書いた歴史書は『太平記』の他に『松梅論』
があり、足利氏よりの立場から書かれたもので『太平記』より、短く読みやすいのでおすすめです。
織田信長
数多の創作物によってわけがわからなくなってきた感がある筆頭の人。
信長の生涯を追ったもので割合最近のものであれば『信長協奏曲』
- 作者: 石井あゆみ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/09/25
- メディア: Kindle版
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
があり、信長一個人が登場するものであれば『ドリフターズ』
- 作者: 平野耕太
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2013/04/12
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
などがある。髑髏杯事件はともかく、寺社焼き討ちについては信長の以前の時代から寺社の横暴に対して諸々あり、どうにもというところ。