邦訳アメコミアドベントカレンダー 1日目 『キャプテン・アメリカ:ニューディール』
- 作者: ジョン・ネイ・リーバー,ジョン・カサディ,石川裕人
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2011/09/28
- メディア: 単行本
- 購入: 5人 クリック: 20回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
こんな人にオススメ
現実の問題を取り扱った作品が好きな人。
続編/関連作品
1作完結のため続編なし。邦訳での関連作もなし。
あらすじ/感想
「ニューディール」はフランクリン・ルーズベルト大統領の政策名としても有名だが、元々カードゲームで新しいディール(ゲーム)を始めるという意味。配られたカードで選べる最後の選択肢はアメリカの手札崩し。迫られるニュー・ディール。幕開けは9.11の同時多発テロ。
アメリカにとっての21世紀は苦難からの幕開けとなった。2001/09/11の同時多発テロから続くテロとの戦い。声明を出したウサーマ・ビン・ラーディンの死が正式に確認されたのは10年後となる今年(2011年)。冷戦後に明確なアメリカの対立国が不在となったが、これまでにアメリカが行なってきたことに対するツケを追うことになる。
マーベル・ナイツブランドで発売された本作は通常のキャプテン・アメリカのシリーズに比べて高年齢向けで、アメコミが内包している現実の問題を取り上げる傾向を強めている。9.11でなにもできなかった*1キャプテン・アメリカがテロと戦わざるをえない状況に追い込まれる。
キャプテン・アメリカがアメリカのイコンという側面を持っている以上、第二次大戦中のように愛国者として敵に立ち向かうことを望む層と、大義名分を失った以上矛を収めるべきだという層がおり、双方が望む「キャプテン・アメリカ」であり続けることが難しくなるスティーブ・ロジャース個人の苦悩。
アメリカの軍製品を身につけたテロリスト、彼らはアメリカがかつて赤軍の南下対策に中東で育てた者たち。アメリカのアフガニスタン、イラクへの攻撃で義肢になった子供たち。アメリカの陽のヒーローであるキャプテン・アメリカはアメリカの陰と戦う。そんな本作は21世紀の始まりにどう対応していこうとしていたのかを描いた傑作だと思う。
こうした21世紀の一連の流れはキャプテン・アメリカに限らずスーパーヒーローたちにも影を落としている。『バットマン:ダークナイト』もラストでトゥーフェイスとなったハーヴィー・デントの事実を隠すためにバットマンがすべての罪を追い、逃亡するシーンがある。スティーブ・ロジャースもこの後暗殺されてしまう。一つの時代は確かに終り、変化に対応していこうとする姿がヒーロー・コミックスでも着実に行われていたことへの振り返りによいと思った。
*1:そうでなかった例外のストーリーもありますが、基本的に現実に起こったことは不可避