復習:『新世紀エヴァンゲリオン』 出会い〜劇場版
いよいよ9月1日には劇場版『新世紀ヱヴァンゲリヲン:序』が公開される。劇場に見に行く前に復習も兼ねて思い出と感想を書こうと思う。
「いまさら感想書かなくてもアニメ様(小黒祐一郎)の『アニメ様の七転八倒』の34回〜64回を読めばいいじゃない」という声が頭の中でしたのだけどあえて書く(アニメ様のコラムはこちら)。
第壱話を見たのは劇場版『THE END OF EVANGELION』が公開された97年の夏だった。
テレビ東京どころかフジテレビも映らなかった田舎ではティーンエイジャー向けアニメ*1を視聴することは困難だった。今でこそ YouTubeを初めとしてインターネットで動画を見ることが可能だが、当時は静止画でさえパソコン雑誌のおまけに付いていた一定時間接続無料でダウンロードするのがやっと。「ニュータイプ」や「アニメージュ」のようなアニメ雑誌もほとんど映らないアニメばかりだったせいか買っていなかった。
そんな状態で『エヴァ』を知ったきっかけはフィルムブックだった。本放映が望めない地域に生まれ育ったためフィルムブックを読んで本編を妄想するという習慣がついていたからだ。フィルムブックに限らない、設定集、絵コンテ、とにかく本編のヒントになるものをかき集めて、脳内で「俺アニメ」を構築していた。「情報の過剰利用」を行っていたのだ。
フィルムブックを手に取ったきっかけまでは覚えていないが、背後に控える厳しい紫色の初号機に対し、正面にいる少年は何かに慄いた姿、とロボットアニメらしからぬギャップに驚いたことは覚えている。
『エヴァ』はフィルムブック自体も他のアニメと少し異なっていた。以下、フィルムブックについて多少説明をする。
TV版9巻、DEATH編、Air、まごころを君にの全13巻。1巻のみ95年発売で以降の巻は96年の発売。各巻の収録話数の内訳は以下の通り。なお、ページ数はフィルム紹介部分のページ数*2。実際にはこの後ろに設定資料集などが付属しているため、全体のページ数は多少多い。
巻数 | 表紙(メイン/バック) | 収録話数 | ページ数(括弧内は各話の内訳) | 備考 |
1巻 | シンジ/初号機 | 第壱話〜第弐話の2話 | 66ページ(26,25) | OP全カット収録 |
2巻 | レイ/零号機 | 第参話〜第六話の4話 | 66ページ(20,12,16,13) | |
3巻 | アスカ/弐号機 | 第七話〜第九話の3話 | 66ページ(18,24,19) | 8話はアスカ初登場回 |
4巻 | シンジ・レイ・アスカ/初号機 | 第拾話〜第拾弐話の3話 | 66ページ(22,18,21) | |
5巻 | 加持・ミサト・ペンペン/レリエル | 第拾参話〜第拾六話の4話 | 66ページ(16,10,18,17) | 14話はAパートが総集編 |
6巻 | リツコ・マヤ/初号機 | 第拾七話〜第拾八話の2話 | 66ページ(24,37) | 18話はバルディエルの回 |
7巻 | シンジ/初号機 | 第拾九話の1話 | 60ページ(55) | |
8巻 | ゲンドウ・冬月・ユイ/南極 | 第弐拾話〜第弐拾弐話の3話 | 60ページ(14,20,21) | |
9巻 | シンジ・カヲル/第三東京市跡の湖畔 | 第弐拾参話〜第弐拾六話の4話 | 96ページ(34,34,6,16) | 26話は本編映像を漫画風にレイアウトした学園エヴァが10ページ+ED |
全巻合計ページ数は612ページ。各巻の構成は後述するものとして、参考までに2クールアニメのフィルムブックをAmazonで調べてみた結果は以下の通り*3。
作品名 | 発売年 | 巻数 | 収録話数 | 各巻ページ数 | 合計ページ数 |
『機動戦艦ナデシコ』 | 97年 | 全3巻 | 1巻が5話、2巻が10話、3巻が11話 | 111ページ(最終巻のみ127ページ) | 349ページ |
『カウボーイビバップ』 | 99年 | 全6巻 | 各巻平均4話*4 | 95ページ(最終巻のみ79ページ) | 554ページ |
『ブレンパワード』 | 99年 | 全4巻 | 1巻が4話、2,3巻で合計11話、4巻が11話*5 | 112ページ(1巻は110ページ、最終巻は144ページ) | 478ページ |
他のものと比べて2クールアニメで9巻もフィルムブックが出ていることにやはり驚いてしまう。
構成を改めて見てみると6巻までは収録話数の違いはあれど、66ページで統一されている。特筆すべきは19話が1話のみで1冊まるまる使っていること。フィルムブック中でも3話分を圧縮した量だとコメントされていたほど。後半詰め込んだ観があるものの、割合話の切れ目切れ目で巻をまたがないようにしているし、まとめ読みするときに分かりやすい。
TV版のフィルムブックにはページの下部にライターの解説がたっぷり掲載されている*6。しかも本編そのものの解説だけではなく、本編の元ネタや解説者の解釈など内容は多岐に渡っている。この解説部分で『エヴァ』が過去作品からの様々な引用をしていることを知った。
本体のデザインもTV版が黒地、劇場版が白地と対比もされていることも中々面白い。
また『エヴァ』の当時の雰囲気を感じさせてくれた本もあった。親戚に不幸があって関東に行ってきた友人が買ってきた『エヴァンゲリオンスタイル』だ。巻末に「著作権承諾とってません」といったことを英語で書いてあるので、当時なんだかんだあって現在は絶版(のはず)。こんな無茶な本の編集をしたのは森川嘉一郎。数年後に書店で『趣都の誕生』でその名前を目にするとは当時は思っても見なかった。
本の内容は当時の大学生・大学院生が自分の専門分野から『エヴァ』を語るというものだった。この本がネタばれと盛り上がりと、同時に一部の皮肉交じりの冷笑を知らせてくれた。
最も自分がショックだったのは評論という言葉でさえ頭になかった自分に、悪く言えば作品をダシにして自分が知っていること(や時には自分自身のこと)を語ってしまうというスタイルを知ったことだった。このスタイルは後々いろいろな方面であれこれあるのだけど、それはまた別の話。
これで言わば攻略本を読んでゲームはまだ未プレイという状態。そんな状態でローカル局の夏休み子供劇場で『エヴァ』を見ることになった。後から思えばおおよそ放映時間ににつかわしくない舞台で放送されることになったものだ。おそらく内容見ずに「ブームだから」とかいう理由で放映決定したんじゃなかろうか。放映された表向きの理由は監督の庵野秀明の出身地だから。シンプル過ぎて涙が出てくる。世間様のブームの終息期におこぼれを与るかたちでようやく見れた、というのが『エヴァ』本編との出会いだった。
シミュレートした脳内妄想を上回る驚きがあった、という喜びが『エヴァ』を見れた当時の素直な感想だった。が、自分が『エヴァ』を嬉々として見ていたころには世間では劇場版の上映が半ばまで過ぎており、『エヴァ』の作品のブームとはまた別の運動がネット上で展開されていたらしい。もっとも、ネットでファンアートをかき集めるのに必死だった私はそのことを知るよしもなかったのだけど……。
追記
続き書きました。
「∀ddict - 復習:『新世紀エヴァンゲリオン』劇場版、ゲーム、そして新劇場版」
(http://d.hatena.ne.jp/takkunKiba483/20070901/p3)
*1:『サザエさん』や『ドラえもん』などのようなファミリー向けでも『アンパンマン』のように幼児向けでもないアニメのこと。
*2:Amazonの掲載のページ数がフィルム紹介部分のページ数だったのでここではこちらに統一。各巻、冒頭に人物紹介などが5ページ
*3:調べ方が悪いのか、「フィルムブック」という呼称が使われなくなったのか、あまり出てこなかった
*4:収録話数がAmazonに載っていない
*5:2,3巻は収録話数がAmazonに載っていない
*6:サブタイトルの黒地に白文字が途中で折れ曲がっているという市川崑のスタイル。1話の国連職員に対してゲンドウが「そのためのネルフです」と受け答えのシーンが広角アングルだったり、サキエルと国連軍の特撮風の戦闘に見られる実相寺昭雄のスタイルなどなど。