『スーパーマン・フォー・オールシーズン』
スーパーマン・フォー・オールシーズン (ShoPro Books)
- 作者: ジェフ・ローブ,ティム・セイル,中沢俊介
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2013/05/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 春
- カンザスの田舎スモールヴィルに育ったクラーク・ケントが大都会のスモールヴィルへと旅立つ
- 夏
- メトロポリスでデイリー・プラネット誌の新聞記者とスーパーマンとしての活動を両立して故郷に錦を飾る
- 秋
- スーパーマンの力を持ってしても救いきれないものを見せつけられて傷心でスモールヴィルに帰る
- 冬
- スモールヴィルでのラナとの再開、洪水からの待ちの救出、そしてメトロポリスへの帰還
スモールヴィルの四季を通じて少年がスーパーマンになっていく話を描く。
裏表紙にある
Before the legend...
Before the icon...
Before the Man of Tomorrow...
が全てを語っていると思います。派手な戦闘シーンでこそありませんが
『DCスーパーヒーローズ』
- 作者: ポール・ディニ,アレックス・ロス,石川裕人,秋友克也,沢田京子
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
- 発売日: 2011/12/17
- メディア: 単行本
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に収録されている『スーパーマン ピース・オン・アース』と同じようにスーパーマンのあり方を示唆している作品だと思います。彼は地に足を付けた農夫の息子として育てられた古き良きアメリカ像を具現化した存在なのです。敵であるレックス・ルーサーが赤毛のビジネスマンとして描かれていることも現代アメリカとの対比でしょう。
繰り返し言及されることですが、スーパーマンは滅びた星の孤児でありこの星にとっての養子です。アメリカもまた移民国家であり、中でもスーパーマンのオリジナルのライターたちは国家を亡くしたさまよえるユダヤ人たちなのです。移民一世の抱える同胞であり異邦である心境をスーパーマンも抱えています。
『ダークナイト・リターンズ』でスーパーマンが核爆弾を静止してチリで一時的に太陽の光が塞がれて回復ができなかったときに地球に語りかけるモノロークを引用すると
僕はあなたを愛してきた……
彼方の銀河から生まれた身ながら……
ずっとあなたに仕えてきた……
同じ力……太陽の力が……
等しく僕らを支える……
あなたが……内に蓄えた力を……
分けてほしい……
苦しみ悶える世界のために……
与えてほしい……
母よ……
母よ……
心から感謝します……
この美しいジャングルを僕にくれた……
誓います
必ずや、養子の僕を誇りに思っていただけると……
というものがあります。自分が異邦者でありながら同胞として使えてきたこと。そして「養子」という自分の立場に言及していること。『ダークナイト・リターンズ』ではスーパーマンは政府に仕える従順な権力の犬として描かれますが、養子である自分が同胞であると主張するためにはそうするしかなかなかったという側面があります。
もっとも、まだまだそこに至るには遠い道のりがあり、クラーク・ケント個人として思い悩んでいるところです。しょぼくれてスモールヴィルに帰っては人生経験豊富な老農父母のアドバイスを受ける若者です。それゆえに悩むクラーク・ケントやスモールヴィルの雄大な大自然のアートが心に沁みます。
このあたりは流石ジェフ・ローブとティム・セイルといったところでしょうか。物思いに耽るクラークの表情や、スモールビルの夕焼けなど、ド田舎の農家に生まれ育った身としては感慨深いものがあります。
スーパーマンの人となりを知る邦訳コミックとしてはこれがベストではないでしょうか。忙しい人のためのショートバージョンが必要であれば『ピース・オン・アース』になるのかもしれませんが。