∀ddict

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邦訳アメコミアドベントカレンダー2012 3日目 『バットマン・アンド・サン』

バットマン・アンド・サン

バットマン・アンド・サン


グラント・モリソンによるバットマンサーガ第一章。編集部の都合上、女性とハッピーエンドを迎えられないブルース・ウェインに息子がいたという話。元ネタは本書冒頭の解説にある通り、タリア・アル・グールとの間に子供がいたという『バットマン:サン・オブ・デーモン』(1987)から。

なぜ1度あったエピソードが繰り返されるのか?その話をするためにはDC Comicsの世界のありように触れる必要がある。詳しく説明するとかなりややこしいのでここでは単純化して説明するが、DC Comicsの世界は定期的にリセットされる。

年を取らないキャラクター、増え続けるヒーロー、矛盾した設定、世界が複雑さを増し、ピークに達した時、それは発生する。つい昨年(2011年)にも『フラッシュポイント』で複数の世界が再編(リランチ)された。しかし、この1年で『Earth 2』を始めとしたパラレルワールドが確認されており、遠くない将来に再びリセットが発生するだろう。

詳しくは未だ邦訳「予定」の『インフィニット・クライシス・オン・アーシズ』の解説小冊子あたりに解説がある……と思う。とにかく定期的に色々なことが無かったことにされる程度の認識で今のところは問題ない。


本誌は『バットマン:サン・オブ・デーモン』と『バットマン・アンド・サン』(Batman #655-658, #663-666)が収録されている。


『サン・オブ・デーモン』はバットマンとラーズ・アル・グールの標的が一緒になった縁から、ラーズの娘のタリアとバットマンがねんごろになり、ラーズのパートナーとして共闘する話。タイトルの『サン・オブ・デーモン』はバットマンとタリアの間の子供(死産だったことにされて里子に出されたため名前は不明)。

謎の解決にアルゴス星に見せかけてプログラミング言語のALGOLが出てくるのだが、バットマンの口から「プログラマーには馴染み」とのセリフが出てくるのに時代を感じる。この頃にはもうC++があったはずだが、C++は使いづらそうだ。次にプログラミング言語をオチに使うとしたら誕生石でもあるRubyあたりが狙い目か。


さて、本編の『バットマン・アンド・サン』だが、『サン・オブ・デーモン』とは異なり、タリアとの間の子だけをさしているわけではない。バットマンの長年のパートナー、ロビンも含まれている。

本書に登場するロビンは3代目ロビンのティム・ドレイク。今年邦訳が出た『デス・イン・ザ・ファミリー』(Batman #426-429 1988-1989)に収録されている『ア・ロンリー・プレース・オブ・ダイイング』(Batman #440-442 1989)で登場。その後正式にロビンとなり、両親の死後、ブルース・ウェインの養子になる。

一方、『サン・オブ・デーモン』の登場が元ネタのダミアンは暗殺者集団「リーグ・オブ・アサシンズ」によって育てられた「バットマンの息子」であることを誇りに思っていることくらいがヒーローになれそうにない子供だ。年長の養子のことを認められずに大怪我をさせてしまうし(このせいもあってか、二人は後々まで仲が悪い)。バットマンとタリア以外の年長者の言うことは基本的に聞かない。犯罪者の首をはねて殺す。一言で言うとクソガキだ。

バットマン・アンド・サン』はこの二人の息子が父親ーーバットマンに認めてもらおうと奮闘する話。いきなりのダミアンの登場の被害者はティムだ。休暇から帰ってくればブルースの実子を名乗るクソガキがいるし、気を抜いていると殺されかける。冒頭でブルースがティムのことを認める発言をしているのに、ティム本人はいきり立って、ブルースが「改めて認めてもらおうとする必要はない」といなすシーンもある。

この二人をまとめ、後にダミアンの子育てをすることになるのが初代ロビンで現ナイトウィングーーバットマンファミリーの長兄、ディック・グレイソンだが、彼の登場は次の『バットマン:ラーズ・アル・グールの復活』を待つことになる。


Batman #666のみダミアンがバットマンになった未来の話になっている。映画『オーメン』でも使われているが、666が悪魔の数字だということにちなんでだろう。成長したダミアンバットマンが父、ブルース・ウェインと並んで口にする名前はディック・グレイソン。この頃にはグラント・モリソンバットマン第2章、『バットマン&ロビン』の構想があったのだろう。


今回はブルースとティム、ブルースとダミアンという父と子の話だったが、子から孫へ、そして兄弟といった家族とその絆の範囲の拡大が『バットマン:ラーズ・アル・グールの復活』で語られることになる。訳者解説にもあるが、過去からの引用の多様や、一見繋がりのないような難解なプロットでも結局のところテーマは家族のあり方だと思う。