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『ガンダム』富野監督と東大工学部教授のディスカッション「テクノドリームI」レポート 第一部


  • 日時:6月14日(土)15:00〜17:00
  • 場所:東京大学駒場キャンパス 13号館 1323教室
  • 登壇者
    • 富野由悠季氏(アニメーション監督・原作者)
    • 下山勲 情報理工学系研究科長・教授(情報理工学系研究科・知能機械情報学専攻/工学部・機械情報工学科)
    • 中須賀真一 教授(工学系研究科・航空宇宙工学専攻/工学部・航空宇宙工学科)


行ってきました。

まず、注意事項ですが。文化庁メディア芸術祭のときと同じく、録音してテープ起こしということはしていません。聴きながら取ったメモを元にしたものなので細かい言い回しなどは異なる場合があります。その辺りは他の方のレポートとつき合わせてみてください。

今回ノートPCを持ち込んでいる人もいたので詳細なレポートが既にある可能性がありますが、観測点は多いほうがいいだろうということで書いておきます。

追記

「地球を使いこなすセンス」が求められる工学〜「ガンダム」の富野由悠季監督らが東京大学で講演 - http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/16/1121.html

Watch Impressに記事が上がったので内容など詳しくはそちらをどうぞ。日曜挟んでるので仕方ないのですが、これが一日早ければなぁ、と思ってしまいました。


全体的な感想を先に書いておくと『ガンダムエース』で連載されている『教えてください富野です』

教えてください。富野です

教えてください。富野です

のライブ版といった感じでした。『教えてください富野です』は毎回専門家を呼んで富野監督と対談するという企画で、富野監督が好きな人もそうでない人にもお勧めです。未読の方はこの機会にどうぞ。

開始前

文化庁メディア芸術祭のときも1時間半前に会場に到着していたのですが、15時開始で13時半に会場到着。既に人がいました。会場は14:15から。列に並んでいる間にも

  • 「この列富野監督のやつですか?」
  • 「このために夜行バス乗り継いできました」
  • 「ガンダムの『ダム』って何?」/「ふくらはぎのくびれだよ」*1

などと聞こえてくる声に偏りが。テクノドリームというよりトミノドリームかと錯覚しそうです。

席の区分は事前に応募した人とプレス。それと当日入場券が10〜20くらいあったようです。会場は長机が左右中央に並んだ階段教室で登壇者の正面2列がプレス席。前のほうはすぐに埋まってました。調べていませんがプレスが多かったので既に詳細な記事になっているかもしれません。

開始:イベント趣旨説明

5分程度遅れてスタート。最初に広報の方からこのイベントの趣旨について話がありました。このイベントの趣旨は「工学が本来持っている未来や夢というものを通じて理系離れへの対策であったり、若い人に夢を与えたりしたい」とのこと。

後で分かるのですが、登壇者からこの「若い人」は駒場の東大生やこれから工学部に進学しようとする人がメインのようでした。会場の年齢層は向こうの想定より高かったようです。……色々スイマセン。

登壇者入場

富野監督
  • 「海のトリトン」「ガンダムシリーズ」「オーバーマン・キングゲイナー」の監督として紹介
  • 富野監督は笑顔で拍手しながら入場。ターンエーキャップ被ってました*2
    • 挨拶を促されるもマイクをいじっているうちに、スクリーンに中須賀教授の紹介ムービーが映る
中須賀教授
  • 人工衛星を作っているとの紹介
  • 赤いポロシャツを着ていた
下山教授
  • ロボット工学でIRTとかやってるとの紹介
  • 富野監督つかみ
  • (最初に挨拶をしなかったことについて)「富野は東大に来て緊張して挨拶できなかったなんてネットに書き込むんじゃないぞ!(笑)」
  • 「実際はここに来る前に1時間くらい関係者と打ち合わせをして疲れた。もう話しつくした」
  • 「巨大ロボットアニメ監督の言うことなんてたかがしれてる」

富野監督のいつものつかみといったところです。文化庁メディア芸術祭のときには「個人的な好き嫌いで言うと好きじゃないけど、大賞に推したのも自分だ」とか、台湾のイベントでは「考えていたことを翻さなければならないと思います」だったり。

監督のファン層はそれを知っているので笑ってましたが、初めて聞く人は面食らったでしょうね。会場の沸き具合で監督ファン層の部屋の分布がうかがえる感じでした。

IRTと聞いたときに項目反応理論化と思いましたが違いました。公式ページからIRTの目的の部分を調べてみると


わが国が世界の先陣を切って直面する少子高齢社会の課題解決に貢献し、わが国の持続的繁栄をもたらす原動力となる自動車、コンピュータに続く新たな基幹産業として期待されるロボット産業の発展のために、IRT(ITとRT(Robot Technology)の融合技術)イノベーションの創出を強力に推し進めることのできる、知と人と設備を備えた研究拠点を東京大学に設立します。

Infomation Robot Technologyの略のようです。説明を聞いていて介護用ロボットのような話が出てきたので、なんとなくはそうかと思っていましたが。


ここから先は話題ごとにまとめていくので発言の時間軸が微妙に前後している部分もあります。ご了承ください。

登壇者とガンダム

司会の方(内田さん。追記を参照)
中須賀教授
  • ガンダム見ていた
  • 元々宇宙に興味があったけれど、ガンダムはそれを促進させた
  • 司会の人に「赤い服着てるのは意識してるんですか?」と聞かれ「そうです」と答えていた
下山教授
  • このイベントのために劇場版ガンダム3部作を見直した
  • スペースコロニー内部で遠心力によって1G発生させるためには、ざっくり見積もってコロニーの直径が3000mだとして100秒で1周程度のスピードで回転すればできるかな?

司会のお姉さんの口から「逆シャア」が出てきたときに驚きました。社交辞令入っているかも知れませんが(追記参照)いきなり「逆シャア」とスペースコロニーが遠因で理系に進んだという方は中々レアな気がします。

追記

内田麻理香さん - 東大な人 - UT-Life
http://www.ut-life.net/people/m.uchida/

と、本当にお好きなようです。スイマセンでした。

教授お二方はガンダム本放送時大学生くらいでしょうから当時見てたかどうかは分かりませんが、見ているものなんだなぁ、という感じでした。

スペースコロニーについて

富野監督のスペースコロニーに対する見解
  • 基本的に『∀ガンダム』のときからの意見
  • 具体的には以来の人間があんな環境で生活できるとは思えないし、材料ひとつ取っても作るのは難しいし、非効率的じゃないかというもの
中須賀教授
  • 確かに現段階はさまざまな面からスペースコロニーを作るフェイズではない
  • ロシアの宇宙ステーションミールを例に挙げて、宇宙での環境はかなり厳しい(臭かったりなんだったり)
  • しかし、人間には外(宇宙)に行きたいという欲求がある。ポリネシアみたいな島の中で一生困らずに過ごせる島国でも1年に数人は島を出て行く
  • だから単純な損得勘定抜きにして宇宙に行こうとする努力は今後も続いていく
下山教授

富野監督のスペースコロニーに対する見解は『∀ガンダム』以降のよく言われているものなので省略します。

個人的に気に入っているのはスペースコロニーに重力を発生させるためにどのくらいの回転速度が必要なのか、という話で、地球はどのくらいのスピードで自転しているかという話。

富野 「みなさん、私たち音速で動いてるんですって」
中須賀「空気も一緒に動いてますから」
富野 「あのねえ!」

というやり取りがありました。双方ともに言わんとすることは分かりますが、面白いですね。おそらく、富野監督は今の普通の状態も実はすごいことなんだよ、と言いたかったのでしょう。大して中須賀教授は運動は相対的なものだから動いているわけじゃないと。

工学の情報発信について

  • 重要なことをやっているはずなのに一般の人に届いていないという発信の問題について
  • 「頭のいい人なんだからそこまで込みでやっていただきたい」という富野監督
  • 対し、富野監督が言ってくれた方がインパクトあるよ、とのこと。
  • それに対して富野監督「大変だよ!」
  • その流れで1部の最後に最新の知識や技術、将来の地球の姿などの発信を富野監督にやってもらえないかという提案も出る(後述)

この辺り『教えてください富野です』だよなぁ、と。今回のイベントもそうですが。

今回に限らず一般に縦割りが厳しくなると隣は何をする人ぞ、状態ではありますが。公開はしていても発信はされていない、というところでしょうか。

IRTやロボット(工学)について

富野監督
  • 東大がIRTをやっていることは今回のイベントではじめて知った
  • これからの人口構成を考えると今後しばらく年寄りが死ぬまで介護や、不足した労働力につなぎとしてロボットをつなぎとして使うのは理にかなっている
  • 自分も年だし、若い人に迷惑をかけないよう努力して死ぬつもりです(会場から笑い)
  • 自分がロボット学者を「バカ」だと言ってしまうのは利便性と引き換えに人間としての性能を劣化させているのを社会的に主張しているのと同義であり、そういう思想とは相容れないから
  • 長年ロボットアニメの監督してるとロボットなんかに載りたくない!あんな上下移動するのなんて嫌!四輪自動車のほうがいいにきまってる!ロボットの開発なんて止めません?(笑)
下山教授
  • 人口減っていくといつかは安定点にたどり着くとは思うけれど、労働力不足の解消にはやっぱりロボットが必要

IRTとの関連で人口減少に対して介護ロボットや、人間の仕事(の一部)を請け負うロボットの開発の話になりました。『教えてください富野です』でもよく出てくるのですが、富野監督は人口は江戸時代くらいでもいいという主張をしていていました。これに限りませんがオタクの話にしても、庶民文化の話にしても江戸時代の話は多く出てきますね。誰が元なのでしょうか。

ガンダム指しながら「乗りたくない!」と言っていましたが、巨大ロボットの上下運動に関しては『空想科学読本』でもマジンガーZを元に算出された上下揺れ幅がすごかった記憶があります。

若い人に言いたいこと

事前の打ち合わせで富野監督が小さいころからものづくりやってる人間じゃないと工学部に行ってもどうしようもないのではないかという話が出る

中須賀教授
  • 研究室に入るまでハンダ付けもしたことない学生が数ヶ月で複雑な回路を作れたという例を出して、以下のように述べる
    • できる素養があるのに、特に小・中学生のころにものづくりをするような機会がない
    • 大学に入ってからでも遅くないのではないか
    • 実際にものづくりをしてみるという経験が必要
富野監督
  • ものづくりの最前線に行きたい人は小さいころからものづくりをやってるもの
  • 例えば週1で秋葉原に行っているか?しかもそこでチップを買ってきて組み立てるというだけではなく、もっと根源的なレベルでの話。それをやっているかというと疑わしい
  • かといって決して「俺には無理だ」と思うな
    • なぜかと言うと、ここ数年の実感として一昔前の20歳は今の30歳くらい。これはスキル面でという意味ではなく、精神論の話
    • だから最近は35歳までを青少年と呼んでいる(子供もいる人を「青少年」と呼んで抗議を受けたこともある)
    • 若い人には分かりにくいと思うけれど、例えば65年前には15歳くらいで幼年士官学校に行って2,3年で戦地に引っ張られたりしていた。そんな中での切迫感を持った行動と、今の人の行動とは大きく違うのは当然
  • と、いうわけで今の高校生は親ですらそんな切迫感を持っていないので大学に入ってからハンダ付けをはじめたのでも大丈夫です(笑)
  • そういった大人の意識(切迫感や社会還元)に欠けていて、社会還元もしてない法人が世の中にはある

前半部分の話はよく聞く話ではあるのですが、昨今の環境の変化はすごいとしか言いようがありません。意図的に機会を作らないと経験できないことが増えているような印象です。極端な例だけを切り出しているとは思いますが、キャッチボール禁止の公園があったり、体育の家庭教師がいたりとか。

後半部分の話は『リーンの翼』を見てからだと色々考えさせられることがあります。エイサップと迫水とアレックスがそれぞれ、現代の青少年、65年前の(元)青少年、現代の大人というポジションですね。漫画版『リーンの翼』1巻で話していた構想を鑑みればここまで考えていたのでしょうが、『リーンの翼』はそれを伝えきるには少し無理があったか、という感じでした。

21世紀的な工学――循環工学

下山教授
  • 20世紀的な工学というのはノーベル賞に代表されるように次々に新しいものを発明・発見していくことだった
  • ところが21世紀はそうもいかない。人口減少の話もそうだが社会的課題が大きく関わってくる
  • そういった点からも単純な右肩上がり論を払拭する必要がある
富野監督
  • 東大の大学院生がノーベル賞を目指していること、人類の進化系としてのニュータイプ、これらは無限に右肩上がりを目指すもの
  • 化石燃料一つとってもリソースは有限であり、使い続けられるということはない
  • 人間だって増えれば余分な二酸化炭素を出すわけだし、さらに科学技術を利用すれば更に問題になる
  • これではみんなで死ぬための技術みたいなものではないか
  • どうにかしたいとは思っているけれども、自分くらいの世代はやはり発想の根源に右肩上がりがあるし、「問題設定やその解決法はニュータイプ*3にがんばってもらうしかない」というのがオールドタイプの逃げ口上
中須賀教授
  • このままでは地球のシステムの崩壊などの大変なことが起こるとは分かっているが切迫感を持てないでいる
富野監督
  • 切迫感が無いのもそうだけど、今は3年先も見えない状態
  • 世界では深刻な食糧問題が起こっているようにどう考えても人が多い。しかし、その他方で日本には数年分の備蓄米があるという状態
  • 最近あったGoogleとYahoo!の合併話にしても単なる経済ニュースとしてではなく、あれだけのシステムを動かすための電気をどうやって担保しているのか
  • などといったことに気づける感度(センス)が重要
  • そういう感度があれば人類の絶滅も遠のく
  • でもこんなことを考えていると1年に5,6回はうつになる
下山教授
  • こういう問題をいかに解決するかという文化を発信していかなきゃいけない
富野監督
  • 日本は西洋/東洋、仏教/儒教/キリスト教などが混ざり、それをドボッと理解し、リファインしている。こんなところはところは他には無い。東京の街一つとってもそう
  • 付け加えるならイスラム教も勉強して欲しい
  • 既存の対立枠を超越したシステムを構築していくのは上記のような稀有な条件を備えた日本という国にそだった人たちの役目
  • アメリカ人はパスポート所持率や、生まれてから自分の州から出たこと無い人の割合が多いことをあげて、アメリカ人はに保守的だということを述べ、そういうのに世界を任せていいのか?という問いかけ
  • 政治・経済・宗教論を超えた工学的なシステムを構築すべきではないのか?
中須賀教授
  • システム論の肝として
    • ローカル(局所)に物事を限定しない(例:リサイクルは局所的には資源の再利用だが、トータルにかかるコストが高ければそれは問題がある)
    • ローカルに限定する場合でもしゅういにどのような影響を与えるのかを考慮する必要がある
  • 環境の話にしても地球だけじゃなく宇宙もある
富野監督
  • 火星までを生活圏として考える必要があると思う
  • エネルギー担当大臣に地球を外から見せればエネルギー論は解決するんじゃないか?
下山教授
  • 石油ストーブとエアコンどっちがエコかという話。確かではないけれど石油ストーブはエネルギーを発熱のために使い、エアコンは熱移動のために使っているので実はエアコンのほうがエコかと
富野監督
  • 人が生体だからと言って地球に優しいわけではなく、いるだけで温暖化の一因であり、人ほど凶悪なものはない。東大に来る途中に渋谷を通ったけど人の多さにゲンナリした
  • 環境的視点から見れば害悪であり、ギレン的に言えば「みんな死んじゃえばいいのよ!」「(環境問題のために)立てよ国民!」である
  • ただ、この「立てよ国民」という政治的レトリックはローカルな視点。昔は資本主義の核兵器は悪で共産主義の核兵器のみが善というものもあった
  • だから客観的な知の行使ということに気をつけなければいけない
  • 有限のリソースである地球を永遠に使う=循環させていくにはこれから生きていく世代が頑張らないといけない
  • 年寄りとしてはもう死んでしまうほうが近いので、そちらの視点で話すと「死んでもいいな」と思える時は「我を継承する我がいること」である。その我のためにも地球を存続させたい。スペースコロニーでは一億年持つとは思えない
  • 後、戦争の熱量と今のネット社会でのエネルギー消費はもしかしたら同程度なのかもしれない
中須賀教授
  • システム論の肝でも語ったが、人全体として、ローカルだけにとらわれないことが重要。全体としてどうなのか考えなければならない
下山教授
  • 正しい考え・正しい知識が循環システムを作るためのに不可欠であり、これらの考えを発信していく必要がある
  • そういった際にコンテンツは非常に強力
    • 例:海外の優秀な人がアニメをきっかけに日本で勉強したりもしている
    • 例:現在の109前が今の人が年をとったころには巣鴨のようになるだろうとことで、写真を合成しただけでも訴える力を持っている
  • 富野監督がそういうコンテンツを作ってみないか?という提案が出る。富野監督、喜んでお手伝いさせていただくと返事

1部終了

この後10分休憩の後、第二部。既に時間押してました。


あらかた内容については書いたのでコメントと細かい修正を適宜やっていきます。

追記

『ガンダム』富野監督と東大工学部教授のディスカッション「テクノドリームI」レポート 第二部 - ∀ddict
http://d.hatena.ne.jp/takkunKiba483/20080615/p2

に二部の補足を書きました。

*1:トニーたけざきのガンダム漫画』参照。もちろんオフィシャルではありません。

*2:確かNHK『トップランナー』のときもかぶっていた黒地に白文字でターンエーのロゴが書いてあるやつです

*3:ここでは下の世代という意味。特に今回の対象である若者たち