『Smoke and Guns』(原書) - シガレットガールの仁義なき戦い
- 作者: Kirsten Baldock,Fabio Moon
- 出版社/メーカー: A I T Planet Lar
- 発売日: 2005/08/31
- メディア: ペーパーバック
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去年(2016年)サンフランシスコに行ったときに立ち寄ったコミックショップIsotopeの店主に
「この店でのオススメはなんですか?」
と聞いてみたら出てきたうちの一冊。なんでもサンフランシスコの出版社が販売しているものなので、他では手に入りにくいらしい。
買ってAmazonを見て見たら10年以上前の本。ペンシラーのファビオ・ムーンの名前を聞いたことがあるなと思えば同年にアイズナー賞を受賞。受賞作は『Two Brothers』。
- 作者: Gabriel Ba
- 出版社/メーカー: Dark Horse Books
- 発売日: 2015/10/27
- メディア: Kindle版
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双子の兄弟のガブリエル・ヴィエ(発音はこんな感じ)との自伝的内容のよう。
帰国して神保町のアットワンダーに行ってみればファビオ・ムーンがペンシラーを務めた『B.P.R.D.: 1947』
B.P.R.D.: 1947 #1 (B.P.R.D. Vol. 1)
- 作者: Joshua Dysart,Mike Mignola
- 出版社/メーカー: Dark Horse
- 発売日: 2015/10/06
- メディア: Kindle版
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の全巻セットが置いてあるし、これも運命だなと思って買った。
一方、ライターのクリステン・ブラドックはComic Vineのエントリにもこの本以外の登録がない。作者近影のコメント読むと出版当時(2005年)はオークランドの図書館とIsotopeで働いていたよう。だから「この店で」オススメだったのか。
職歴にシガレットガールやってたことと、嗜好品にシングルモルトウィスキーが書かれているので、コミックの世界観はライターの趣味全開といったところ。
さて、本編の方はというと、シガレットガールの『仁義なき戦い』とでも言いましょうか。タイトルの通りタバコと銃の煙が紙面に立ち込めるお話。
シガレットガールというのはお色気満点な格好をしたタバコ売りのお姉さんのことだ。現代となってはイベント会場やナイトクラブ、カジノなんかのショーガールとしてしか生き残ってない。もっとも、行ったことないから伝聞だが。
アメリカでは1920〜1950年代くらいまで都市部の街頭にいたらしい。なぜ1950年代までかというと「自動販売機が普及したから」というみもふたもない理由と風紀上の理由がある。いまいち想像がつかない人は「Cigarette girl」で画像検索してもらうか、台湾のビンロウ(噛みタバコみたいなもの)売りのお姉さんを思い浮かべてもらうとよいと思う。なお、こちらも21世紀になってから風紀上の理由で規制がかかっているとのこと。
そして画面はブラック&ホワイト(要するに白黒。トーンがないので中間色はない)。そこにゆらぐ白い煙。白黒映画でもレフ板替わりにたかれた煙。光源を意識するコマがそう多くないのでレフ板と同じ用途で使われてはいないものの、雰囲気としては白黒映画のものだと思う。
話は表紙のお姉さんーースカーレットが越境して商売して撃たれ、縄張り争いが激化、仲間の犠牲を乗り越え、相手の拠点を潰して一服というごく単純なもの。名前あり登場人物も主人公のスカーレット、相棒のアニー、二人の元締めのビック・ピーチくらい。男はバーの客とタバコ買いにくる人、要するにモブだ。あとはひたすら趣向の違うコスチュームのシガレットガールが銃で撃ち合う。大体そんな感じ。
チャイナタウンで春麗みたいなお姉さんに絡まれるのと、バーでウルヴァリンみたいなおじさんに絡まれるのはちょっとパロディ要素なのかなと思ったけれど、特に意図は読み取れなかった。
ファビオ・ムーンの描くお姉さんの絵と黒地のコマの白の使い方など、総じて魅力はモチーフや絵の方にあるか、といったところ。インターネットで公開されたものややローカルディストリビュートのコミックブックが出版社で出すようになることがあった時期になりつつあった頃だと思うけれど、今でも出版されてないところを見ると、そこまで評判はよくはなかったんだろうな。