∀ddict

I'm a Japanese otaku. I like Manga, Anime, Games and Comics.

機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト 4巻 感想

概要

収録
月刊ガンダムA 2013年3-6月号
シリーズ
機動戦士クロスボーン・ガンダム
前巻のあらずじ
ふとしたことから地球を滅亡に陥れる兵器エンジェル・コールの鍵を手にしてしまった主人公フォント。クロスボーン・バンガードと合流し、ザンスカールが雇う一騎当千部隊(サーカス)との戦いを繰り広げる。サーカスはフォントとエンジェル・コールをおびき出すため、両親を人質に取る作戦に出る。ネオ・テキサスコロニーがフォントの両親を差し出さない場合、コロニーの子どもたちを1人1人殺していくと脅す。救出に向かったフォントはサーカスの母艦に囚えられてしまうが、サーカスのメンバー、ジャックの導きで欠陥機体ファントムによる脱出を試みたが……
評価
ヒロイックなロボットものが好きで長谷川裕一の絵が苦手でなければ読むべき

感想

15話 鐘の音は幽霊のねむりを覚ますか?

前巻ラストでサーカスの母艦からの脱出には成功したものの、ファントムのバイオコンピューターの不備、二重の制御系統に苦しみ、地面に打ち付けられてコンピュータが再起動してしまうファントム。刻限は迫り、ネオ・テキサスコロニー内外にキゾ中将が処刑の開始を告げる。


キゾは二流の悪党らしく処刑の前に自分の理屈をベラベラ喋る。この手の自己陶酔タイプというか劇場タイプは目的の達成よりも自分の決めた事が計画通りに進むという体裁が大事なタイプで大抵失敗する。今回の失敗の原因は時間のかけすぎ。少年誌にあるまじき悪党の登場が許されるのであればフォントが完全に服従していないと分かった段階でコックピットから引きずり出して銃なりで子供を殺し「ギロチン以外で殺さないとは言ってない」とのたまうだろう(個人的にはそんな悪党が出てくる少年誌は嫌だが)。

逆に言うとフォントからすれば鐘から鐘の間までの余裕があった。時間制限の中解決方法を探すプロットはオーソドックスながら威力を発揮する。映画監督のアルフレッド・ヒッチコックの話だったと思うが、放課後に居残りの罰があるときに放課後までの時間が不安で長く感じるのと同じで、一定時間後に悪いことが起こると伝えられている場合のそれまでの時間経過は不安と長い尺で描かれる。


鐘が鳴り、サーカスの団長が部下に適当に子供を選ばせる、フォントがキゾに話しかけて時間を稼ごうとするも失敗、フォントが子どもたちの中から選んだ一番年上の子供が名乗りを上げ、ギロチンの順番を変える。この間は10分程度の時間のはずだ。この時間の間にフォントは自分の中の悪魔の誘惑を受けながらも、子供の勇敢な姿に心を打たれ、一度は負けたファントムで戦うことを選ぶ。

弱い自分との対面。何もできない自分のために自分より弱いものが死んでいく無力感、そして自分が助かるための方法の模索。この間まで日常生活を送っていた思春期の少年が追い込まれても無理の無い状況だ。そこから立ち直らせるためにフォントより幼く弱い者が勇気を見せるというのがベタだがいい。自然と奮い立つシチュエーションだ。そして再戦。前回はファントムをコントロールしきれなかったことが一番の敗因だと分かっている。つまり、勝つにはファントムの力を出し切れればいいとお膳立ても充分だ。


フォントの咆吼とともに覚醒するファントム。自身を押さえつけていたサーカスの機体を跳ね除ける。全身からミノフスキードライブの余剰粒子が噴き出し、炎のような揺らめきとともにフェイスマスクが開く。あたりに怒声のようなミノフスキードライブの稼動音が響き、ギロチンの準備をしていた下っ端たちは逃げ出してしまう。

サーカスの団長はファントムの様子を見て「ファントムライト」という言葉を口にする。ファントムのミノフスキードライブからの余剰粒子の放出を今回はファントムライトと言うらしい*1。口ぶりからすると名称は知っていたらしいが、見たことはなかったらしい。前巻でファントムを倉庫に放置していたしそりゃ、見たことがないか。


立ち上がったファントムはギロチンの刃を吹き飛ばす。ギロチンが安全になってからベルと子どもたちが処刑台に架けられた子供を助ける。子供の処刑を止めようと飛び出さないようにゴードンに静止されていたジャックが動く。ジャックの機体の右手のデスフィズ(ビーム・ドリル)がファントムに迫っていた。

だが、ファントムはデスフィズを止めた。Iフィールドだ。対ビーム防御と言えばIフィールド。主人公がIフィールド持ちの不完全な機体に登場するのは『機動戦士クロスボーン・ガンダム』シリーズの伝統。不完全な機体は主人公そのものの暗喩でもある。また、機体に制限がかかることで縛りのあるある種の能力者バトルの側面を持つようになる。「主人公の咆吼とともに覚醒する機体」というヒロイックなシチュエーションを提示しつつも覚醒後の展開をお約束で終わらせないこと*2に貢献している。


16話 一騎当千vs一騎当千

ジャックを倒し、ゴードンとの戦いに挑むフォント。この時代のMSのメイン武器はビーム兵器なのでIフィールドがあれば素人パイロットでも傭兵の攻撃をある程度受けることができる。前回素人がプロに技量で倒されたギャップが埋まっている。

その間にやはり考える時間ができる。ここでフォントが本領を発揮する。例外もあるが、『機動戦士ガンダム』シリーズの主人公は機械工学に優れた人間だ。機械の機能を理解する時間ができた。ミノフスキードライブIフィールド、その双方の利点を生かし、ゴードンを追い込んでいく。このように知恵と勇気で切り抜けていくのがこの物語の醍醐味だ。

不利になったゴードンはジャックに助けを求めるが、ジャックは回想に浸っていて動けない。幼いころに年少者を守れなかったトラウマが子供を傷つける行為に過剰反応している原因だと明かされる。これは直後の伏線になっている。


そうしている間にカーティス率いるクロスボーン・バンガードがコロニーを取り戻す。カーティスは人質の解放と同時にコロニーの解放が行えるようにコロニーの事情に詳しいフォントの両親を事前に確保し、作戦を立てていたことを明かす。

カーティスとフォントの関係は『機動戦士クロスボーン・ガンダム』におけるキンケドゥとトビアの関係で、パッと思いつくだけでも

  • 年長者が頼れる兄貴分
  • 年長者は偽名を使っている
  • 年少者は始めは時代遅れの機体を使っているが、何かしら欠陥のある最新機に乗り換える

あたりがそのままだ。今回の作戦にしてもオーバーラップするものがある。『機動戦士クロスボーン・ガンダム』は今年で20年、英語の世代ーーGenerationも約20年を指す。世代を語れるだけに十分な時間とキャラクターが出てきたのは嬉しい限りだ。


まだ生きていたゴードンの最後の反撃が始まる。が、ここは二段階覚醒で難を回避。発動のタイミングが多少ご都合的ではあるが、シルエット・フォーミュラシリーズはフェイスオープン状態の延長だろう。ファントムが元々惑星間高速移動のために作られたMSだという設定を活かして推進力で勝負しているところも設定活かしていてうまい。


17話 宣戦

ゴードンを引き剥がすのに成功したフォントだが、自身は急激にかかったGのために嘔吐(実際にはかなりの目眩などもあるだろう)。ファントムもオーバーロードして放熱状態で動けなくなる。

この時間が今度はサーカス側に有利に働く。まだ動いているゴードンに対応するために強制冷却カートリッジを使うフォント。実運用をしたことがない機体に想定でここまでの手当をしているかはちょっと厳しい気もした。X-3のように冷却期間が表示される方が現実的な気がするが、漫画の時間経過は映像に比べて厳密ではないとはいえ、制約が多いので秒数はどうとでもなるギミックを使ったと見るべきか。

ファントムに駆け寄るベル。ファントムより先に動いて銃口を向けるゴードン。ゴードンの動きにカーティスとジャックが反応する。ジャックは意識的に動いたと言うよりはトラウマ駆動の無意識だったようだ。意図せずゴードンを制止し、カーティスがゴードンの動きを止める。

「やってしまった」という顔でコックピットのゴードンに駆け寄るジャック。既に助からないゴードンにとどめを刺すが、コロニーを制圧したクロスボーン・バンガードに拘束される。


フォントはファントムでギロチンを叩き壊し、キゾ中将に見せつける。これが今回のタイトルの「宣戦」だろう。人々は旗を掲げ、ギロチンから開放された男の子も拳を掲げている。


キゾ中将の支持でサーカスは撤退。団長の撤退にはコーシャのMSバイラリナが使われる。ジャックの始末のためにハイヒールの部分のヴェスバーが放たれる。ファントムのIフィールドヴェスバーを分散するフォント。

今回のヴェスバーは全力ではなく、全力の出力の場合はファントムのIフィールドでも防げないだろうと宣言される。次の戦いに向けた課題の提示だ。防げないのであればどうするのか?クロスボーン・ガンダムにおける以前の解法はビームシールド2枚にビームサーベルでビームを軽減して受けるだった。そしてVガンダムにおける解放は光の翼の使用だった。今回はおそらく後者に近い解法になると思う。

戦いが終わってフォントはカーティスにおぶわれながらコックピットを出る。そしてカーティスとスパイの男が約束した「百年戦争のない国作り」への参加を約束するのだった。


18話 フォント・ボーの長い一日

ネオ・テキサスコロニーからの撤退について通信をするキゾ中将とサーカス団長。結局のところキゾとしては資源コロニーを抑えるのには正規軍を使い、無駄な正当性の主張や追加料金を取られたくなかったといったところか。団長も予め使い捨てに近い役割でジャックとゴードンを失うことになったのだから内心穏やかではないだろう。


クロスボーン・バンガードではフォントを起こしにリガ・ミリティアのお姉さん3人組が来ていた。「男子三日会わざれば刮目して見よ」といったところか。呼ばれてカーティスのところへ向かう。

デッキにはファントム、X-0、ジャックの機体。ファントムからハロロが切り離せなくなっている。事前に素人パイロットのフォントがファントムに載ることはないと自分で説明させておいて、ファントムに再度登場することになる布石が出ている。バイオコンピューターの理論が謎なのでプログラムが切り離せなくなる理屈も謎ではあるが、まあそういうこともあるということで。


この後前回のフォロー。前回出撃に使ったザクとVガンダムがどうなったかの顛末(無傷で回収)と囚えられていたコロニーの子どもたちとの面会。ギロチンに架けられた子供との自分のみっともなさの言い合いは冒頭で大人びて見えたフォントがまだ子供側の人間であることを感じさせていい感じ。


そしてカーティスとの面談。カーティスはクロスボーン・バンガード代表として前回の顛末への小言を言い、フォントにクロスボーン・バンガードへの参加を問う。参加には躊躇いがないのに、「後悔しないか?」という問いに対してははっきりと

「しますっ!
 すると思います
 …っていうか正直もう半分 後悔しかかってます…」


と答えるところは大変正直。この辺ウソでもいいから躊躇いを見せて「しません!」と答えないのはフォントのキャラですね。

クロスボーン・バンガードの参加にあたり

  1. カーティスに指示を仰ぐこと
  2. カーティスの指示と自分の意見が対立したときはカーティスの指示を優先すること
  3. カーティスの指示が仰げない場合は自分を信じて行動すること


を提示される。トビアなんだかんだで3番目ってことにして単独先行してたりしましたもんね。おそらくフォントも知らず知らずにそれに倣うことになるのだと思います。

そして、カーティスからコロニーで救助した子供の親から謝礼金がフォント宛に入る。個人で使うには大金だが、武器の補給には到底足りない額。というのがミソでジャックを個人で傭兵として雇う伏線につながる。


そしてラスト。通信の傍受でエンジェル・コールの受け渡し場所が地球に指定されている事を知る。場所は南米ジャブロー。宇宙から降下する側にとって南米ジャブローは明らかに罠なわけですが、どう展開していくか楽しみです。


まとめ

一つ一つの伏線や展開の進め方は簡単に分解できてかつ割合短期間に解消されるものが多いのですが、それでも運び方がうまい。

登場人物の関係性は『機動戦士クロスボーン・ガンダム』とかなり同じだったりするのですが、それでも時代背景や技術の違いによってできることの違いがうまく活かされている。

ガンダムに限らずSFの年代記を書くときには参考になりそう。というか『クロスボーン』『鋼鉄の7人』『ゴースト』あたりを再構成して1年アニメになりませんかね……。

*1:V2の同様な仕組みは「光の翼」という名称だった

*2:終わってしまう礼としてはスーパー戦隊ものの合体攻撃や巨大ロボットの必殺技だろう。あの一撃で決まることを前提にしている。その上で強敵に対しては「攻撃が効かない」展開が提示される。そこまで含めてあれはひとつのお約束だ