∀ddict

I'm a Japanese otaku. I like Manga, Anime, Games and Comics.

ブレンパワード 1話 深海を発して

今年は2008年になり、ブレンパワードも1998年と10年前のことになりました。というわけで見直すことにしました。10年ひと昔と言いますが、10年後のブレンにどのような感想を持つのでしょうか。もっとも、フィルムはその時点で定着して変化しようがないので、うつろっているのは自分自身の方なのですけどね。

とは言っても個人的には「なんどめだブレンパワード*1」だったりします。本放送時にはWOWWOWで見ていたので1回。時間帯ずれた再放送で1回。一挙放送で1回。ビデオ録って後何回か見てるはずです。

どれだけブレンが好きなんだ(笑)いや、実際にはアニメほとんど見れなかったから1つの作品を何度も見て咀嚼し続けるしかないという田舎の悲しい状況だったのですが。

さて、そんな個人的な事情はこのくらいにして感想を書くことにします。時間が経つにつれて当時は明かされなかった情報が明らかになっていたりもします。例えば裏トミノブログで明かされた富野メモの話など。


ブレンパワード最初のカントクメモでは、ブレンは奥多摩のヘルスセンター地下で作られた気孔で動くロボだったのです。伊佐美勇くんはそこの合気道道場へ通って気孔を身につけているという主人公でした。

気孔は気功のtypoですかね。気功から「オーガニック」辺りの流れに来るわけですね。

また、何度も見ているのでその時点で分からないことも書いていたりすると思いますが、あらかじめご了承ください。


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1話 深海を発して

OP/EDは富野監督の感性が爆発しているので割りと好きです。お茶の間で見るのが辛いけど。当時は夕飯終わりくらいの時間に放映していたので非常に気まずい思いをしました*2


そこからビットが飛び交うなにやらデジタルな雰囲気の青い空間にタイトル。勇がタイトルに登場するのは1話のみ。フィルムブックの絵コンテだともっと動きがあったようだけど、実際にはそうでもない感じ。

古今東西デジタルの空間の描写には色々あると思います。個人的にはデジタル空間の描写はパソコンに近い方向だと黒地に白or緑が多い感じですが、ネットワークに近い方向だと青地が多いような印象。

黒地のものは何もない空間に光がさす――「はじめに光あれ」とでもいうべき雰囲気があります。あたかもその先が別の世界かのようなイメージを与えてくれるという印象。映画『MATRIX』がそのイメージ。実際に『MATRIX』では現実世界とマトリックス(コンピューターの中の世界)がありましたしね。昔の(といっても普及してからのパソコンですが)PCを触っていた人間としては電源を付けたときに真っ黒なブラウン管に白い文字が浮かび上がってくるだけの動作に過度の思い入れがあるので、「向こう側の世界」に思いをはせるところです。

対して、本作もそうである青地のものは海のイメージでしょう。もはや死語ですが「ネットサーフィン」などという言葉もあったくらいですし*3。『MATRIX』に比べると分かる人が少ない事例ですが『AIが止まらない』なんかはネットが完全に海でした(あれは水着出したからという理由でしょうけど)。また、生命の源は海ですし、デジタル的でありながらも生命体であるというオルファンやアンチボディなどのイメージにもマッチしていると思います。


本編はいきなりプレートだとか噴火とか擬装艦で実験やってるシーンからスタート。いきなり出てくる「ビー・プレート」はその実体が明らかにならないまま、とりあえずの目標のようなマジックワードとしてしばらく使われます。結局人間の側で解釈して「そうだったんじゃないか」ということしか分からないんですよね、

リバイバルは今見ると当時のCG技術だなぁ、と思うところがなきにしもあらず。しかし、CD(or DVD)が読み込まれてビットやデータが実体化して生み出されていく生き物というのは面白アイディア(最初に引用した裏トミノブログによれば永野護&河Pのアイディアらしいですが)。アナログな生物=人間、デジタルな生物=ブレン・グランみたいな対比とも取れて面白いところ。

後々研作とカントがオルファンについて学会発表するときに陰と陽、プラスとマイナス、オスとメスという二元論的な対比からオルファンに対するビー・プレートの仮説を立てている話がありましたね(オルファンがヒメに見せたビジョンだともう一体オルファンみたいなのがいましたけど)。


そこから勇と比瑪の出会い。これが運命の出会い、といっても2話のサブタイトルが「運命の再開」なので出会いは偶然に過ぎず、再開するからこそ運命なのかと。

リバイバルしたてのブレンに対する比瑪の態度なんか1話見た当時は不思議でした。なにせ自分の乗機と会話をしていて、それが今までのような庇護者の象徴としての扱い*4ではなく、子供として扱われているところがかなり違和感がありました。2周目からはそれがブレンパワードだとして見れるのですけどね。遅くても1周目にネリー・ブレンがスケートしている辺りで実感がわいてくると思います。


そして場面は1年後オルファンの中に。ここで勇の家族が勢ぞろいしているのですが、まだこのファミリーがどういった状況なのかは解説されていません。後から見れば

クインシィ「私はクインシィ・イッサー。伊佐未依衣子ではない!」

の辺りがキーなんですけどね。

勇の方はというと大義名分と世界情勢を差っぴけば反抗期になった末っ子が親から逃げ出そうとしているという状態。で、現代的な意味でのいい子(本名:依衣子さん)であるクィンシィが勇の脱走を阻止しようとする状態。後、この辺りだと勇の脱出の部分(部屋を飛び出してからブレンのところにたどり着くまで)は個人的に好きな流れです。


そして脱出。1周目だと気にならないと思うのですが

勇「急げよ。こんなブレンパワードのゴミ箱で金属の塊にはなりたくないだろう」

のところが2周目だとちょっと引っかかるところ。ブレンが生き物だというイメージが刷り込まれていて、機械と同じようにスクラップを連想させる「ゴミ箱」と「金属の塊」という台詞を勇が言うところが面白い。

1周目だと

勇「海水がきたぞ。耐圧、かけられるな。……ようし、いい子だ!」

から始まる勇とブレンの会話に戸惑うところだと思いますが。


さて、といったところで1話が終わりました。総合的な感想としては初期の富野メモで気功というキーワードがあるようにブレンパワードは東洋的な観点が色々取り入れられているような気がします。

うまく言えませんが、事象を極限まで解体して不可分な状態にまで持ち込む。そこから全てを再構築するというアプローチによって個々の事象が説明できそうなんですが、実際の事象はもっとファジイというか、情念的というか、それで割り切るには余りあるものじゃないのかという異議申し立てみたいな感じでしょうか。

例えばプレートからのアンチボディのリバイバルは最小単位であるビットがプレートに収められていてそれがリバイバルすることによってアンチボディーになります。まだ後の話になりますが、双子のブレンパワードがリバイバルするときに勇が

勇「立会人に合わせてくれるのがアンチボディだ」

と言うんですよね。プレートに収納されてるビットと再生されている内容はモチーフからするとデジタル的なもの*5であるはずなのにそれが立会人なんていう最悪いないかもしれないあいまいな要素に作用されるという不思議なことが起こっています(あと「相手に合わせる」というのもキーポイント)。

他にも

勇「リクレイマーの連中は遺伝子や記憶が全てだと言うけど、そうだったらなぜ俺たちは世代を重ねるんだ?」

なんていう台詞を後々語っていたり。単純なデジタル的なものへの批判ではなくて「ふと止まって考えてみると実はおかしいんじゃないか?」という……先ほど使った言葉で言えば「異議申し立て」という感じでしょうか。「それは○○だ!」という気はするけれども、そう断言するにはためらわれる。そのためらいとでも言いましょうか。

そういった実感値としてはあるけれども、うまく言語化できないもの――語りえぬものを語ることによってその輪郭を浮き上がらせる*6という感じですかね。

ブレンパワードが難解であると言われるのはそういった部分が原因だと思うんですよ。いわゆるエンターテイメント作品のように作品テーマを作中人物が語ってしまうものではありませんし、構造や仮想標的でテーマを連想させる作りにしてはリハビリ中の作品(笑)と言うべきか。


とにかくこんなアニメ(笑)を何度も見れるのは信者だし、見てしまったから信者になってしまったのだな、という作品でした。とはいえ、富野作品の多くは2周見るか解説込みでないと中々理解するのが難しいものですがね*7

全話頑張って見たはいいのですが、1話分の(しかもまとまっていない)感想を書くのに相当時間かかっているので26話分書く時間がなさそうです(泣)

*1:金曜ロードショーでナウシカが放送されるたびに実況に書かれる「なんどめだナウシカ」のパロ。徳間・日テレがスポンサーなので、リピートして放送するのも当然だけど

*2:しかもWOWWOWは自分の環境では裏録ができなかったのでリアルタイムでテレビをつけているしかありませんでしたし。

*3:Webの方はハイパーリンクのつながりをイメージしてクモの巣なんですが、こちらはヴィジュアルとして流行りませんね。ごちゃごちゃしてるからでしょうか。

*4:マジンガーならおじいちゃん、ガンダムならテム・レイ、エヴァなら碇ユイ

*5:先ほど言った不可分な最小限単位から再構築可能なものと言った方がいいかな?

*6:これウィトゲンシュタインだっけな?

*7:フィルム上の情報量の調節は『0080』かなにかの解説してたので意図的にそうなってるわけですが。