∀ddict

I'm a Japanese otaku. I like Manga, Anime, Games and Comics.

『墨攻』

原作は酒見賢一の歴史小説で、それを元に森秀樹が漫画化し、それを映画化したのが今回の『墨攻』。公式やパンフレットによれば漫画版が原作らしいです。私は小説版のほうは読んだことありませんので漫画版と映画の感想になります。

あらすじは漢字変換が色々出てこなかったのでWikipediaから引用。

兼愛・反戦を説き墨子が築いた墨家であるが、三代目巨子・田襄子の代となり徐々にその体質を変え腐敗し、権力と結びつく道をとろうとしていた。 そんな中、祖の意志を貫こうとする墨者の革離は、趙軍に攻められている燕国の梁城城主・梁溪からの依頼により、田巨子の命に背き単身梁城に乗り込み、趙の大軍を相手に梁城を守ることとなる。墨家の協力が得られないまま、革離はたった一人で梁城の民をまとめあげ、巷淹中将軍率いる趙軍を相手に奮戦する。

小説、漫画、映画のそれぞれで梁城と趙軍の勢力が少しずつ数が違うようです。映画は四千対十万です。

キャストは主人公・革離がアンディ・ラウ、趙軍の将軍・巷淹中がアン・ソンギ、梁城の城主・梁王がワン・チーウェン、城主の息子・梁適がチェ・シウォン、梁城の騎馬隊の女近衛兵・逸悦がファン・ビンビン、梁城の弓兵・子団がウー・チーロンです。

以下、ネタばれありでエピソードの取捨選択、漫画版との相違点や感想など。

エピソードの取捨選択は漫画版1巻〜3巻(全8巻)の梁城防衛戦。漫画版の原作である小説版が梁城防衛戦で終わっていて、4巻以降はオリジナル展開(漫画脚本の担当が付いてる)なので、映画版は小説版と部位としては同じ部分です。こちら側からも参考にしている部分があるかもしれません。

漫画版のエピソードは一進一退の篭城戦が続く展開。2時間の尺の中で戦闘ができるのはせいぜい2回だろうと踏んでいたのですが、最初の攻撃、トンネル作戦、本体が引き上げた後の少数精鋭との最終決戦・地下水脈を利用した革離の反撃と勝利の計3回でした。穴掘りは戦闘と言える戦闘でもないので実質2回でした。というわけで、その他の戦闘はカット。これに伴った展開も色々カットして、漫画版とは人物の配置も変えています。うろ覚えなところも多少ありますが、覚えている範囲で

漫画と映画の設定の相違点

  • 革離に預けられた権限
    • 漫画版:梁城の全権。王様より立場は上、その権限で贅沢や特権を剥奪し、王侯貴族からの反発を買う
    • 映画版:軍の指揮権
  • 王宮の壁の使い道
    • 漫画版:城の全権を渡すかどうかをめぐって革離と梁適が壁の修復で競うことに。梁適が土で埋めるだけの修復なのに対して革離は石で完全に修復。その石の出所が王宮の壁ということでひと悶着
    • 映画版:南門に砦(?)を築くために利用
  • 蔡丘の扱い
    • 漫画版:梁城から脱走しようとして袋叩きに合う*1。革離に取り立てられて最初はビビリで敵兵を倒すこともおぼつかないが、そのうちリーダー的な存在に
    • 映画版:梁城から脱走した4組の家族のうちの1人。趙軍に見つかって家族を人質に取られ、間諜として梁城に戻る。革離暗殺を指示されるが失敗。その後の戦闘の後に趙軍によって家族はもずのはやにえのような状態で城外に晒される。梁王が革離と親しかったものを処刑することにしたときには命乞いもむなしく両足を切断される罰を受けた
  • 梁適
  • 漫画版:最後まで生き残り、革離が見つかったら国づくりのために力を貸してほしいと望む
  • 映画版:革離を追放しようとするさいに人質を買って出たのが仇となり、牛将軍の命令で放たれた矢で死亡
  • 逸悦
    • 漫画版:記憶に無い。漫画版でも娘(にゃん)という元刺客が革離に恋心を抱き、墨家で革離の昔なじみの司路に薬を盛られて深い関係になりましたが、それは漫画オリジナル展開になってから。映画に出てこなかった梁適の愛人はいたけど……
    • 映画版:逸悦は革離に恋心を抱く騎馬隊の近衛兵。「女だからといって軽視されたくありません」など『機動戦士ガンダム』(TV版)のセイラさんさながらの女戦士。梁王もそのことを認めており、処刑を決めたときに送ろうとした号は「騎馬女王」。「墨家は誤解されないために礼を受けない」と繰り返す革離に靴をあげたりベストをあげて、ついには着用させたり、体当たりで誘惑したり。革離が追放されてからも革離をかばったため梁王の逆鱗に触れて車裂きの刑に。実際には趙軍が攻めてきたために刑は執行されず、車裂きの際の悲鳴が聞こえないように喉が潰された状態に
  • 子団
    • 漫画版:逸悦と同じく記憶に無い。漫画オリジナル展開になってからは雲荊や蘭鋳といった相棒もできましたが、梁城は蔡丘だけだった記憶が……
    • 映画版:弓隊にいたのを革離が抜擢して戦闘指揮官に。革離が追い出されてからは捕縛され、親指を切り落とされる。革離の計によって地下水が湧き出すとそれに呼応して一緒に城外に出た弓隊と一緒に反撃。民衆の梁王を称える声を聞いて自決

映画版でカットされた展開

  • 革離が頭に服や持ち物をまとめたものを載せて川を立ったまま泳いで渡って梁城に来るシーン
  • 城内での話
    • 矢じりのようなものを先に付けた槍を鋳造して皆に配る(映画だと最後まで庶民は農機具で戦ってる)
    • 潜入した趙兵狩り。潜入した人数以上で常に行動するようにしておき、一人見つかるごとにグループを一人づつ減らしていくという戦略。逃げられないと悟った趙兵が革離に一騎打ちを申し込むという話も
    • 蔡丘関係
    • などなど
  • 穴掘りの男の過去の話
    • 映画では革離が兼愛の精神に基づいて殺さずに開放したという展開で過去には触れなかった。漫画では穴掘りの男は見世物として諸国を連れまわされており、子供の頃の革離と会っている。その際、革離は穴掘りの男に小便をかけて(多分子供同士の度胸試しみたいなもの)反撃を受けそうになり、クワか何かで男に怪我をさせてしまう。その傷跡で穴掘りの男のことを思い出したというエピソードがある。

といったところでしょうか、おいおい追記します。逆に映画で追加されたシーンとしては逸悦と子団関係、そしてラストの展開。映画版では梁適が死んでいるので梁王が圧政を敷き、その5年後に梁が滅びたことに。革離のその後については漫画の最終巻で娘や戦災孤児と一緒に暮らしていた描写を踏襲しているのでしょう。


全体的な感想としてはお金がかかっていてアンディ・ラウはかっこいいな、といったところでしょうか。10万の趙軍を描写するためのエキストラ数による行軍は圧巻。趙軍が始めて攻めてくるときに戦闘経験の無い住民が失禁しているところとか細かいところも気を配ってたり。


シナリオとしては冒頭とラストが姉が小さい妹に呼びかけているところにつながってところ、偵察中に革離と逸悦が趙軍に見つかったときに逸悦が泳げないことが地下水であふれかえる梁城でのラストにつながっているところなど、きっちり伏線を回収している。奇跡が起きて復活するとかいう展開も無いのは好印象。ただ、ラブストーリーに尺割かない方法は無かったのかなとは思うのですが。個人的な動機ではない正義では動機付けが弱いということなのかな(物語の大前提として墨家は反対したのに個人的な正義感で革離は梁城に来てるんだけど)

設定面では革離と巷淹中のシミュレーションは墨家の祖・墨子が楚が宋に攻め入ろうとしたときにシミュレーションで楚の軍師と対戦して戦いを事前に収めていたという経緯に基づいていることをひと台詞入れて欲しかったな。それからそこで用いた戦略が実際の攻防にどう生かされたのかという描写があると個人的には面白いんですが、そんなの誰も見たくなさそうですね(笑)


キャストはこんなものだろうと思います。アンディ・ラウも努力してるのは分かるのですが、チビ・ハゲ・ヒゲ・ギョロ目のいかにも怪しくて頼り無さそうな風体ではありませんね(彼はカッコいい)穴掘りの男は意外に合っててビックリ。あの人外人だったとすると見世物で引き回されてたというのも納得。体が大きいと穴掘るのに向いてるとも思えませんけど。後、巷淹中もイメージよりスマートで悪役というイメージが付きやすくなったのはちょっと良し悪しあると思う。


ラストの戦争が終わっても支配者階級が変わらない限り民衆はそれに従い、何も変わらないというのも一理あると思います。それを描写するために蔡丘のポジションが革離を通じて成長する人から革離がいなければ「俺は農民なので何も知らない」とその場しのぎの嘘を付く人になってるんだろうな。

墨家の教えが厳しすぎるのは革離がぐらついていることからも描写されているし、それを守ろうとした人たち(梁適・逸悦・子団)が革離以外死んでいることからもそれが分かる。非攻兼愛という言葉がいかに実現することが難しいかということが繰り返し描写されている映画でした。

*1:確か、まだ趙軍が来ていなくて嫁さんは臨月。袋叩きにあっている最中に子供が生まれて、「もう逃げない。子供を守る!」宣言をしたはず。