∀ddict

I'm a Japanese otaku. I like Manga, Anime, Games and Comics.

『FLCL(フリクリ)』感想 GLGL(ギリギリ)

○ 作品紹介

セーフティーバット*1を持った聡明な少年が、突如現れた美少女?(年齢:自称19歳/職業:家政婦)宇宙人にギターで頭を殴られて一皮剥ける話。全6巻。

以下、ネタバレを含みますのでご注意を。

○ キーワード「GLGL(ギリギリ)」*2

・ギリギリな時代

これが発売した当時は皆「ギリギリ」だった。

時代は世紀末、100年ごとに起こる祭りが20世紀でも始まったのだ。*3残り10年に差し掛かり、さまざまなことが起こった。「キレる17歳」*4というコピーが誌面を賑わわせ、バブル崩壊と共にOLから女子高生に世代交代。ケータイやインターネットといった新しいメディアも徐々に浸透しつつあった。

もちろん20世紀末特有のイベントもあった。ノストラダムスの大予言2000年問題*5である。

ヒトラーの台頭や第二次大戦の勃発を予言したフランス人が

 「1999年7の月に恐怖の大王が表れて人類を滅亡させる」

なんてことを言っていた。「1999年の9月は来ないから夏休みの宿題はしない」と豪語していた友人もいたほどでそこそこ盛り上がっていた。が、肩透かしを食らったように完全にスルー。

やりきれない気分を抱えている頃にY2K*6の情報が。みんなこの話題にかぶりついたのだけれど、これもなにごともなく終了。

そんな不完全燃焼の気分で21世紀を迎えたのだ。そういったギリギリな気運が『FLCL』に反映されている(このことは1巻付属のブックレットで鶴巻監督も語っている)。続いて監督の言葉を拝借すれば『FLCL』はそういった時代の雰囲気を背負った「ミレニアム*7アニメ」なのだ。

・ギリギリな推薦基準

さて、そんなミレニアムアニメが公開されて早5年。このアニメは他人に勧めにくいものになっている。そう数の多くない『FLCL』のレビューや感想に目を通しても音楽や演出方法はおおむね好評を得られているのだが、ストーリーや雰囲気については評価はまっぷたつに分かれている。

しかも発売して相当経っているので、『FLCL』が好みに合いそうな人はすでに見ているのだ。見ていない人は好みにあっていなかったという可能性が高いので勧めるのは危険だったりする。

しかし、このことは裏を返せば一種のバロメーターとも取ることが出来る。OVA*8である『FLCL』までたどり着いたということは1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』以降のアニメの変遷をある程度把握しているはずである。(それは『FLCL』をリリースのリアルタイムに近い時間で見ていれば見ているほどそういう傾向があると思われる)

あの時代を(特に10代で)経験したアニメファンは見てみるといい……のかもしれない。

・ギリギリな登場人物たち

ナンダバ・ナオ太 「キレる子供/年齢」

どのメディアを見てもキレる子供という特集が組まれていた時期があった。少年犯罪が相次いだ後、オトナは口々にキレる理由を尋ねたものだが、おそらく理詰めではこの問いに対する答えは出ない。非常に情緒的なものだ。しかし、それでは人によって分かる/分からないが左右されてしまう。それでは「なぜ?」と問い詰められて答えに窮してしまう。自分の語りえない潜在意識を含めて、ギリギリな理由で「キレる」のだから。その辺りは4巻でも語られている。

また、年齢的にギリギリである。ナオ太は12歳(小学校6年生)だが、もう少し年齢が低ければただの子供で理屈っぽい毒は吐けないし、お姉さんたちに囲まれたこの状況を受容できないだろう。かといってもう少し大きくなっていればエロに走ってしまって単なるハーレムものとして終わってしまう。その中間のギリギリなポジションにいるので、初めはお姉さんたちが迫ってくることに嫌悪感を抱いているし、後半になって初めて状況を受容できるようになってくるのだ。

彼は大人の頭が子供の体に押し込められたギリギリな時期の象徴なのである。

ハルハラ・ハル子 「椎名林檎/アトムスク

椎名林檎といっても今のイメージではない。プロモーションビデオでナース服を着てチェーンソーで車を切断したり、歌詞の表記が独特だったりというあの当時の話である。ハル子はあの頃の幻影である。『えの素』に出てくる女性のようにディフォルメされているということが適切かもしれない。

あの当時の椎名林檎に『えの素』というと既に無敵。事実、ハル子はラスト寸前まで何をやっても許される存在である。だが、彼女をかろうじてつなぎ止めるものがある。途切れた手錠の先にいる海賊王アトムスクである。しかし、そのアトムスクの存在は非常に危うい。なにしろ本人の姿はラスト以外に登場しないし、どういった存在かはアマラオが語る一方的で未確認情報が混ざったような情報でしかない。アトムスクのことをどの程度知っているのかについてハル子は多くを語らない。しかし、彼女からしてみればアトムスクがいるからこそ地球にとどまってもいる。

彼女のギリギリは自分と世界をつなぎとめるものなのである。

サメジマ・マミ美 「女子高生/タッくん」

バブルが崩壊して数年。援助交際、ケータイとメディアの話題はOLから女子高生に移っていた。だが、それも長くは続かなかった。援助交際は援助する大人側が罰せられる法律ができて話題としては下火になったし、ケータイも普及につれて特別なものではなくなっていった。また、ヲタ的にもこの頃にはメイドブーム全盛期*9で、メーカーが一番乱立していた時期でもあったので、毎月大量のメイドゲームがリリースされていた。これ以降、女子校生*10などの一部の需要を除いては女子高生ブランドにも徐々に陰りを見せていくのだった。

マミ美は事あるごとに「タッくん」を口にする。始めはタスク、そしてナオ太、ネコ、最後にはターミナルコアと「タッくん」に依存していく。始めの「タッくん」は小さい頃の自分を支えてくれたタスクである。マミ美にとっての「タッくん」像はこのときのタスクの年齢や性格を集約したものである。タスクがアメリカに行ってしまってからは自分より弱い存在を見つけては「タッくん」にするべく教育を施すのである。だが、ナオ太もネコもマミ美の意に反して手に負えないものになってしまう。その度に「タッくん」になりきらなかったものに対して恨み言を言いつつ新しい「タッくん」を見つけて同じ事を繰り返すのである。これは教育ママのギリギリさをほうふつとさせる。現に、教育ママが先生や神様に必死にすがるように、マミ美も黒き炎の神カンティートや恐怖の大王にすがりついている。

彼女は自分のポジションや、精神構造といったギリギリさを内包したキャラなのである。


まだまだ個性的なキャラが数多く登場するのだがそこは本編を見てのお楽しみ、ということで。

結局、彼らが織り成す物語は大人と子供のギリギリなのだ。人が大人になるというのは年齢だけの話ではない。年齢的には大人であるハル子は自称19歳*11だし、太マユオヤジというあだ名が似合うアマラオはカップからあふれるほど角砂糖を入れないとコーヒーを飲めないし、激辛カレーパンは匂いをかぐだけで限界。そして、極め付けがこのセリフである。

「そいつは自分のことしか考えない女(引者注:ハル子のこと)だ。周りのことなんかどうなっても気にしないやつなんだ。けど、お前(引者注:ナオ太のこと)は違うだろ!?家族も友達も、あの女子高生も救いたいと思うだろ!?それが普通なんだ。大人なら当たり前のことなんだ。こっちに来い」
(アマラオ 6巻より)


しかし、ナオ太はアマラオのほうに向かわずハル子の方へ行ってしまう。そしてアマラオは叫ぶ

「なにやってんだ、馬鹿かお前は!ガキが!!」
(アマラオ 6巻より)


これはそれまで大人に向かっていたナオ太が子供にとどまっている最後のシーンである。ラストシーンを経てナオ太は中学生になる。完全に大人になった、というわけではないのだがナオ太のギリギリな時期は終わりを迎えることになるのだ。

○終わりに

なにはともあれ『FLCL』は子供と大人のギリギリを表現したミレニアムアニメなのだ。

これ以上何かを言うよりは作品を見てもらうものとして、最後に鶴巻監督のQ&Aを引用して終わろう。(追記:出典はおそらく『フリクリズム』(角川書店)のようです。id:Tiyouさん情報ありがとうございました<(_ _)>)
 

Q. 『FLCL』が分からなかったという人に対して一言どうぞ
A. ごくろうさま


Q. 『FLCL』が分かったという人に対して一言どうぞ
A. ごめんなさい

*1:「セーフティーバント」と『ピーナッツ』の登場人物ライナスが自分の気持ちを落ち着かせるために常に持ち歩いている「セーフティーブランケット」をかけている……つもり。アメリカでは「セーフティーブランケット」という普通名詞で気分を落ち着かせるために持っているものという意味合いがあるらしい。

*2:決して「グルグル」ではない。自分もそう読んだし、『魔方陣グルグル』(著:衛藤ヒロユキ, ガンガンコミックス)を思い出したのだが……。

*3:19世紀にはニーチェなんかが色々言っていたりする。もっとも、あまり相手にはされていなかったようだが。

*4:このコピーは確か長崎バスジャック事件のときのもの。

*5:金融機関などのシステムが西暦の下二桁で年度を管理していたため、システム上での時間が1999年から1900年になってしまい、預金情報が全てダメにになる恐れがあった。家電製品などでも同様のエラーが起こる可能性があったが、被害は予想よりも小規模で済んだ。

*6:2000年問題の略称。関係ないがY(山崎)+2K(加藤、小泉)の略称でもある、2005年現在では使われていない。

*7:千年紀の意味。2000年になるということで1999年から2000年にかけて盛んに使われた。これも2005年現在では使われていない。

*8:Original Video Animetionの略

*9:その影響かハル子が3巻でメイド服を着ていたりする。

*10:誤字ではない。女子高生とどう違うのかは倫理機関に問い合わせてください。

*11:これはバンド「19」が19歳を選んだ理由と同じだと思われる。