Netflix『マイリトルポニー:エクエストリア・ガールズ - 虹の冒険』
評価
- 4/5点 (一度戦った強敵は友になる王道展開)
概要
『マイリトルポニー:エクエストリア・ガールズ - 虹の冒険』は日本でもテレビ東京系列でTVシリーズがシーズン2まで放送されていた『マイリトルポニー 〜トモダチは魔法〜』(以下MLP)
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の番外編の劇場作品。『マイリトルポニー:エクエストリア・ガールズ』の続編。
太古の昔にポニーの世界を追放されていたセイレーンが実は人間界にいて人を仲違いさせて魔力を貯めていたというトラブルを、再びトワイライトスパークルが人間界に訪れて、人間界のメンツと事件を解決する話。
印象に残っているところ
前作での敵だったサンセットシマーが反省し、最初はメーン6からも邪険にされる(それだけ前作での彼女の治世が厳しかったということなのでしょうけど)扱いだったのに、トワイラ一スパークルとも協力して、エクエストリア・ガールズにおけるトライライトスパークルのポジションになっていく過程。
サンセットシマーは事あるごとに前作の悪行を責めるように聞こえるセリフを受け止めながら、ポニーの世界からトワイライトスパークルを呼ぶのに貢献したり、弱気になっているトワイライトスパークルを励ましたり。二人とも周囲の期待に応えるために頑張らなきゃと自分を追い詰めるタイプなのでその辺は似ているし、気があう部分があるのでしょうね。そして最後の最後でメーン6にも受け入れられ、サンセットシマーも音楽によって魔力が解放される状態に。
彼の国はセカンド・チャンスの話がよく作られる傾向にあると思いますが、正にこの物語はサンセットシマーのセカンド・チャンスの話だったように思います。いやほんといい話でした。
全然本筋でないところだと、人間界とポニー界両方でメタネタキャラとしてピンキーパイが超常的な解説をした後に「カン」とだけ答えていて強引な説明の畳み方だなぁ、と思いましたが、古い漫画だと「かくかくしかじか」で処理しそうな部分だったのでこういうのもありなのかなと思いました。
総評
完全に前作『マイリトルポニー:エクエストリア・ガールズ』を受けての続編なので、2本続けて見ないといけないですが、その価値はあると思います。サンセットシマーよかったね。
Netflix『ローマ皇帝 血塗られた統治』S1
評価
- 3/5点 (まあ普通かしら)
概要
『ローマ帝国 血塗られた統治』はNetflixオリジナルのドラマで、シーズン1は全6話。
後に「五賢帝」と呼ばれる皇帝が輩出されたネルウァ=アントニヌス朝の最後の皇帝にして、最悪のローマ皇帝の一人に数えられるコモンドゥスの話。この時期には珍しい親子によるローマ帝国の継承(他の皇帝は諸事情で子供がいなかったので、親類が継承していた)で、父親は「哲人皇帝」ことマルクス・アウレリウス・アントニヌス。
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の皇帝だと言えば分かる人もいるのではないでしょうか。
父親の時代からゲルマニアなどの戦線拡大に伴ってずっと戦争をしていた時代に生まれ、父や本人もあまり戦争が好きではないのに父親が戦争で死んで、後ろ盾も弱い状態での即位となり、後に「暴君」と呼ばれるまでに至る変容が描かれていく。
印象に残っているところ
時代背景があまり分かっておらずで現代的な捉え方でモノを言いいますが、父親から継承者に指名されているものの、成長半ばで後ろ盾である父を亡くし、本人もあまり乗り気ではない。加えて身内(実姉など)も虎視眈々と皇帝の座を狙っており、元老院とも折り合えず、折からの戦争による食糧不足や兵役による不満などかなり悪い状況があったのも確かだなとは思いました。
で、大体こういうときに暴君・暗君と言われる人たちは職務放棄して自分の趣味を大体的にやってしまうもので、コモンドゥスも奴隷の職業だった剣闘士として戦います。この辺のエピソードから映画『グラディエイター』が生まれたんでしょうね。そりゃ周りも「こらあかんわ」ってなるでしょう。話は暗殺されて終わり。
Netflix『マイリトルポニー:エクエストリア・ガールズ』
評価
- 4/5点 (マイリトルポニーやっぱり好きなんだなぁ)
概要
『マイリトルポニー:エクエストリア・ガールズ』は日本でもテレビ東京系列でTVシリーズがシーズン2まで放送されていた『マイリトルポニー 〜トモダチは魔法〜』(以下MLP)
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の番外編の劇場作品。シーズン3でアリコーン(翼の生えたユニコーンないしは、角の生えたペガサス)となり、プリンセスとしての加冠式に参加するトワイライトスパークル一行。そこでティアラを何者かに奪われてしまい、ティアラの所在である異世界へ。その異世界は元の世界のポニーたちと同じ名前・同じ性格の人間たちがいる世界だった、という話。
一番の驚きはテレビ東京系列で放送していたテレビシリーズと吹き替え声優が一緒なんですよね(メイン6人が沢城みゆきとミルキーホームズ)。去年公開された最新シリーズでも同様だったのでNetflixの資本力の一端を感じます。
印象に残っているところ
MLPのキャラクターを生かしたまま、うまいところ異世界学園モノをやっているところはうまいと思いました。男の子向けだとアメフトやってそうなジョックが相手(実際ティアラを奪った派閥側にアメフトのユニフォームの人いますが)なのですが、女の子向けなのでクイーンだけど、チアリーダーではない。アメリカの古くからの学園モノの『アーチー』の現代劇である『リバーデイル』
だとガッチリそこはチアリーダーなんですけどね。主人公のアーチーはモテ男設定なのでアメフトと音楽両方やっていてそれはそれでですが。
王冠を奪ったのはサンセットシマー(CV:小清水亜美)で、彼女は元々ポニーのいる世界の住人(のちのエピソードから判明するが、どうやら人間の世界は流刑地の様子)で、しかも元プリンセス・セレスティアの弟子。トワイライトスパークルとは姉妹弟子にあたります。とにかく典型的な嫌なやつで、魔力を手に入れようとするのですが、トワイライトたちの友情パワーで改心するという、なんか声優の役柄チョイスがしっかりしている感じでした。
キャラしっかり分かった上で見てるので、シチュエーションの変容の方に注力して見れるし、割と学園モノの典型的な作り(主人公が転校生で、学校は嫌なキング/クイーンに支配されている。そこで主人公は個性的な仲間たちを束ねてキング/クイーンに挑戦し、彼/彼女を改心させて楽しい学園生活を手に入れる)でお子様にも見やすいでしょうし。
Netflix『ヒトラーの共犯者たち』S1
評価
- 3/5点 (長い割にあんまり知らないことがなかった)
概要
『ヒトラーの共犯者たち』はNetflix配信のドキュメンタリー。シーズン1は全10話。
ヒトラー本人の話はやり尽くした面もあるので、ヒトラー生存説を追ったドキュメンタリー『ヒトラーを追跡せよ』
のように怪しい説の検証であったり、はたまた『帰ってきたヒトラー』
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のようなSFになったりというところですが、本作はヒトラーの側近たちの話にフォーカスしています。
一部プロやセミプロがいるのですが、基本的にヒトラー政権のトップは素人が多く、そりゃ崩壊するよなという感じでした。
印象に残っているところ
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に寄るところが多く、ヒトラー自身がプロパガンダに利用した第一次大戦までの虚構を交えた経歴(極貧だったなど)はそちらに準じているのですが、「一番病」
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などを書いた水木しげるらしく、ヒトラー本人はある種の頭おかしい人として描かれていましたし(特に特定の人たちとの謎の交流は妖怪たちの交流会のように描かれている)、「カーッ」や「フハッ」などといった水木しげるのディフォルメ表現もあってユーモラスに描かれていたと思います。
当然この話の中でも、側近の大半はゴロツキのように描かれていて(けど結構本人に似てる)ろくな感じではないのですが、やっぱり皆それぞれろくなものではなかった。ヒトラーとの個人的繋がりが重視されていて、自分たちが奉仕すべき相手の方を向いてないという。総力戦に切り替わったのも敗戦色が濃厚になった頃で、それまでできなかったのは地方有力者の反対を抑えられなかったからだと言いますし、
Netflix『ボクらを作ったオモチャたち』S1
評価
- 3/5点 (馴染みのあるオモチャだったらもっと楽しめたと思うけど……)
概要
『ボクらを作ったオモチャたち』はNetflixオリジナルのドキュメンタリーで、シーズン1は全4話。
取り上げられているオモチャは
で、基本的にほとんど遊んだことも馴染みもないので、評価があまりよくないという感じです。OPのアニメでトイザらスのような店舗に入っていくのですが、そんな大きいオモチャ屋さんなんて行ってなかったもんなぁ。また、題材の時代的にも概ね私より上の世代なんですよね。バービーなんかは半世紀以上前に母親が遊んでましたし。
面白かったのはクリエーター達の当時のとんでも話。マテル、ハズブロなどのアメリカの大手企業の成り立ちが聞けたり。後、よくある権利問題。だいたい権利問題。ブレイクスルーを達成するときには無理な契約をするもので後々の禍根になります。
印象に残っているところ
スター・ウォーズ
ジョージ・ルーカス監督本人ですらここまで大ヒットすると思ってなかった『スター・ウォーズ』。当然オモチャも大手が契約してくれるはずがなく、地方のオモチャ会社が好条件で契約し、ヒィヒィ言いながら大儲けしていくものの、売れたら売れたでルーカスフィルムは条件の見直しをしたいわけで、最終的には会社ごと大手に買われてしまうという末路を辿ります。
特に初期はキャラクター商品にありがちな既存のオモチャのリペイントでしのいだり、限定販売品が高騰したり。ボバ・フェットがTVスペシャルのアニメが初登場だったというのは初めて知りました。というかそんなのあったんだ……。
バービー
元々ドイツの大人向け漫画のキャラクター商品から着想があった(目がキツくてセクシー体型なのはそのせい)というのは初めて知りました。
初期モデルを作った人がいいところの出で最初に給料が払えなかったので開発品の1.5%のロイヤリティという仰天な契約をして、後に関係が破綻したという大成功したらよくあるパターンもありました。他にも創業者が粉飾決済して会社から追放されたり。
市場シェアで勝てなくなったら金にモノを言わせて裁判でシバくというアメリカらしい話も出てきました。結局売れるトイデザイナーが元マテルや元ハズブロの人なので、在籍中に副業でやってたやつなんかだと訴訟に負けるパターンが。
後、当時他にあまり他の大きなオモチャ会社がないのだと思いますがほとんどのエピソードで元マテル社員が出てきて「マテル古くからある大きい会社なんだなー」と思いました。スター・ウォーズエピソードのケラー社の社長も元マテル社員でしたし。
ヒーマン
アメコミとアニメで存在は知っていましたが、オモチャのバックストーリーがないことを指摘されてその場で口から出まかせで「コミックがあります」「アニメをやりましょう」と言ってできたものというのは驚愕でした。
ここでもヒーマンのオリジナルクリエーターが誰か問題が勃発してました。バービーの時より穏便でしたがはっきりクレジットされない仕事の手柄は難しいですね。
そして現在のヒーマン。完全に大ヒットした時期に遊んでいた大人向けの高価格帯製品になってしまったという。日本でもバンダイが受注限定生産なんかでやってますし。
G.I. ジョー
スネークアイズが黒一色なのはカラーバリエーション使った時のコスト削減目的だというのがオモチャ屋さんらしい事情で面白かったです。
Netflix『サバイバー 宿命の大統領』(原題:DESIGNATED SURVIVOR) S1
評価
- 4/5点 (とても面白かったけど、1シーズンで20話越えているので気軽に勧められない)
概要
『サバイバー 宿命の大統領』(原題:DESIGNATED SURVIVOR)はNetflixオリジナルのドラマで、シーズン1は全21話。
ジャンルとしては「例外的な規則が適応される異常事態になるとどうなるのか?」というシミュレーションの話です。
本作の例外的規則は原題の「DESIGNATED SURVIVOR」でアメリカの指定生存者制度です。この制度は一般教書演説のように主要人物が一箇所に集まらざるを得ないケースで、大統領継承権保有者のうち一人を離れた場所に待機させることで、不祥の事態発生時にも大統領の不在を避けるためのものです。
日本でもフォーカスは「異常事態」の方でしたが、『シン・ゴジラ』
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で主要閣僚が乗ったヘリがゴジラの熱線で爆発し、外遊中だった大臣が総理大臣になりました。日本の場合は内閣法第9条と慣習から内閣総理大臣臨時代理の候補を5人選んでおくのですが、指定生存者制度はないはずなので、5人同時に不祥の事態が発生することはあります。その場合は劇中と同じように現役国務大臣から優先して選ぶのでしょうね。
本作の物語はこの制度が連邦議会議事堂がテロリストによって爆破され、閣僚および主要上下院議員の大半が死亡するという最悪のシチュエーションで適応されることから始まります。閣僚は指定生存者に指定された主人公のみが生き残り大統領に。上下院議員もほぼ生き残っておらず、議会も機能しない状態。
印象に残っているところ
キーファ・サザーランドのジャック・バウワーとは違う役柄
主人公は元々誠実さが取り柄の学者で政治家歴の浅い住宅都市開発長官。しかも指定生存者に指定された理由は大統領と政策で割れ、大統領から半ば謹慎処分を言い渡すための処置でした。そして、ここが一番重要なポイントなのですが、誠実さが売りの住宅都市開発長官の役は『24』主人公のジャック・バウワーを演じたキーファー・サザーランド。
キーファ・サザーランドというとTVドラマ『24』で
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CTU(テロ対策部隊)の捜査官ジャック・バウワーを長年演じてきたその人でして、いわゆるタフガイキャラです。また、個人的な印象としてゴシップで私生活でも暴行・傷害などで逮捕されていることも知っていてキツい人という感じでした。それが元学者の気弱なところがある誠実な人というイメージと全くフィットせず、中盤くらいまでは私が一方的に違和感を感じていました。なにせ、プレッシャーのあまりトイレで吐き続けたり、意見の違う人に遠慮がちな発言をしたり、怒鳴ったり、膝を撃ったりしないわけですし(笑)
こういった演者のイメージの特定キャラクターへの固定は古くからある話です。例えば、第二次世界大戦後のTVシリーズ『スーパーマンの冒険』でスーパマンを演じていた俳優ジョージ・リーヴスの死の真相を突き止めるサスペンス映画映画『ハリウッドランド』
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でも描かれていましたが、彼は長年スーパーマンを演じていたせいでそのイメージが強く、シリーズ終了後に他の役がなかなか得られなかったそうです。特にTVシリーズの場合、月1や週1で間が時々開くとはいえ、長いと10年近くはそのキャラクターを見ることになるわけですしね。
『24』と『サバイバー 宿命の大統領』の間にキーファ・サザーランドは『TOUCH/タッチ』でも主演なのですが、残念ながら『TOUCH/タッチ』は見れておらずでして、そこで今回の役柄のような役を演じていたのかもしれません。私にとってはほぼジャック・バウワーからの変化なので驚きが大きいところでした。
ただ、あくまでこれは私の物語外部の情報に根付いた印象の話で、キーファ・サザーランド自身は主人公のトム・カークマンをよく演じていると思います。眼鏡や衣装などの小道具やいかにも神経質そうな仕草など、学識があるかというとよくわからない面はありますが、丁寧な人だということは伝わってきます。
非常事態だからこそまとまるのが難しい
思えば、アメリカは過去の世界大戦で首都機能がある場所を壊滅させられたことがないんですよね。だからこれが初めてのことなのだと思いますが、皆が皆の思惑で動いてまとまらない。
前半は概ね大統領の正当性にケチをつけて皆独自の行動をとりたがり、収束しても非協力的だったり、これまで主人公が積極的でなかった政争に巻き込まれてうまくいかなかったり。後半は一応臨時大統領として認められるものの、次期選挙に向けた調整や、前後半通して核心に近づいて行く連邦議会議事堂爆破の犯人とその動機や過程とがからみあって行きます。
ざっと挙げてみると
- 大統領の受難
- 捜査官の受難
- 連邦議会議事堂爆破の犯人と犯行の解明(ここは物語上のネタバレを多く含むのでこれ以上書きません)
といった感じです。
アメリカにとっての大統領のイメージが想定以上に強い人間であることを期待されているのと、軍部や諜報組織とはうまくやっていくのが難しいという、他の作品でも描かれている問題が描かれます。そして、この両方ともに主人公のカークマンの出自や性格の問題から対応がハードモードになっている印象。
ただ、主人公カークマンが開始時にプロフェッショナルではないからこそ、成長談的な要素や展開ができることに幅ができているところがこの物語の大きな魅力の一つだと言えます。人が成長して行く(しかもかなり年でやったことがない重責を担いながら)過程は見ていて勇気付けられるところがあります。
プロフェッショナル集団の話は業界の特異性や、プロの仕事が観れるという自分が第三者として観察した場合の楽しさでそことはかなり違うなと思いました。『24』もプロフェッショナル集団の話ですが、とかく暗部に向かいがちだったり、息苦しいことになっていくことが多くなっていたように思います。書きながら思ったのですが、このシリーズに対してキーファ・サザーランド=ジャック・バウワーを介して『24』的な物語性を期待していたので、序盤から中盤にかけて違和感を持っていたのかもしれません。
総評
面白かったのですが、話数が多いのと、海外ドラマによくあるシーズンで話が完結していない問題があって、今のところ勧めづらい状態です。アメリカではすでにシーズン2が放送されているそうなのでそれ次第かなと思います。
Netflix『マンハント』(原題:MANHUNT) ユナボマー
評価
- 4.5/5点 (とても面白かった)
概要
『マンハント』(原題:MANHUNT)はNetflixオリジナルのドラマで、今の所公開されているのはアメリカの連続爆弾犯・ユナボマーに関するエピソード。全8話。タイトル通り、特定の犯罪者を逮捕するまでの話のシリーズなのかもしれない。
物語は1995年に言語センスが優れた捜査員が犯行声明文(産業社会とその未来)から(統計)言語学的に犯人を割り出す方法を編み出していく過程と、ユナボマーが特定されてからは、当人とその周囲の暮らしなどが描かれていく。
印象に残った部分
言葉遊びのようなところから始まった(統計)言語学アプローチによる犯行声明文の解読。これが犯人像に迫ったいった過程が一番印象的でした。
他の方法はというと、Netflixのオリジナルドラマ『マインドハンター』で黎明期が描かれていたプロファイリングと、現場の刑事の勘と経験と度胸。この話中では有力だと、現場の勘が重視されているような節があって、容疑者に当てはまるプロファイルを求めていたりと本末転倒な使われ方をしているときもあった。
解読は犯行声明文である『参照社会とその未来』から
- 文章の形式
- 特徴的な書式
- 特徴的な言い回し
- 特徴的な綴り(同じ単語でも綴りが違う。例:"color"と"colour"など)
- 文章の内容
- 出てくる内容
- 出てこない内容
などを紙やホワイトボードに書き出していって、犯人のパーソナリティを推定していく作業。95年だとまだPCでこういった整理をするには向いてないようで、床や壁に大きな紙を張って記入していくのがビジュアル的にも面白い。
書式は有識者会議の中である一定時期に使われていた博士論文のフォーマットということが分かり、高等教育を受けていたと推測されます。犯行声明文はタイプライターを使っていたので、現代のようにあらかじめ設定したフォーマット内に文章を書くのではなく、フォーマット込みで文章を書き上げていく必要がありました。そうなると、フォーマットを知っていて、ある程度そのフォーマットで文章を書くことに馴染みのある人物。容疑者の中で博士論文のフォーマットを知っている人がそういるわけではなく、かなりの絞り込みに使われました。
また、現代ではあまり使われなくなった古風な言い回しや特徴的な綴りは、文字や単語を覚える時期、その時期に読んでいた新聞や雑誌の語彙、綴りの授業に使われたものが寄与しているのではないか、という推測につながりました。古風な言い回しで年齢の検討がつき、綴りに至っては年代と地域をともに絞る材料になりました。
上記からある程度の容疑者絞り込みが行われた後、家族からの告発(実際には弁護士を介して照会をかけただけで、それを元に家族に会いに行くのは違法。連絡した担当者は更迭されていた)を受けて、筆まめだった犯人の手紙を押収。手紙に犯行声明文と同じ特徴があるかを調べていきます。
そして、この調査内容は証拠として認められ、ないのですこれが。上司も押し切ってきたし、捜査令状にサインさせるのも押し切りでしたし。家宅捜索の結果、爆弾や犯行声明の元となる文章などの物証が出たのですが、犯人に「違法な操作によって入手した証拠は無効だ」と指摘されてしまう始末。とはいえもう物証はあるのだがというところ。
当初ユナボマーに付いていた弁護士は心神喪失状態を訴えることにしたものの、ユナボマーはこれを拒否。自分で弁護にあたり、逮捕に至った言語学的調査を行なった捜査官に揺さぶりをかけます。何を考えているのか黙して語らないまま、ユナボマーは裁判を受けずに司法取引をして刑務所に収監されることとなりました。
ユナボマーが多くを語らなかったことは人々の関心を呼んでいたようです。まだ生きていて今年76歳になるようです。
余談
逮捕に至った調査95年のもので、ユナボマーが1967年に博士課程を修了していることから、少し古い話ではあるので、現代だとどうなるかを考えてみました。
ユナボマーは山奥で電気を引かずに生活していたので、犯行声明文を書こうとするとタイプライターになるでしょう。自筆だと筆跡鑑定(これは95年当時も有効な証拠だった)にかけられてしまいますしね。電気と電話を引いていないので必然的にインターネットにはつながらず、電子メールだと送受信記録から足がつきます。ユナボマーの犯行声明は95年と変わらずタイプライター、ないしはどこかのネットカフェなりで書き上げて印刷されたものになるでしょう。
文書の書式に関してはタイプライターの場合は自発的に選ぶ必要がありますが、タイプライターで書く時点で別の絞り込みができそうです。例えばタイプライター用の消耗品を買っている人間にするなど。
言い回しや綴りはある程度特徴が出てくることには変わりがないと思います。ただ、特徴的なスペルで地域を絞れたのは当時でも偶然に近いものだったので、標準化されていそうなものが近年も有効に働くかはやや疑問です。後は時代的なものもあるのですが、人種差別的表現があり、その人種があまり生息していない地域出身だという話も、次第に大きい都市だとなくなってきているような気はします。
内容に関しては今の方がもっとハードになっていたかもしれませんね。本人は使わないと思いますが、例えば手伝いをしていた図書館の子がSNSにはまり続けていたりしたら、SNSの会社がターゲットになっていたかもしれませんね。「人間の創造性を損ねている」とか「時間を無駄に使っている」とか。
犯行声明文と手紙の比較は著者推定である程度機械的にできるようになっていると思います。ただ、これも「X%、本人だと思われる」の世界なので、有効な証拠として扱われるには難があるかもしれません。
総合してみると、ユナボマーの生活を前提にするとあまり変わらなさそうですね。トレーサビリティーの低い手段を使う必要があるので、そうするとポストに投函になりますし。封筒や箱であれば宛名が印刷したものを張っているのも特に不思議なことではないですし。文書解析によるプロファイリングが進んでいるかどうかでしょうか。